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No.132 ページ33

星々が白い尾を引いてしばしば流れ落ち、新たな世界を前に砕かれた古い命の如く消えていく。
暗く掃き溜めのような世界の誕生を最も喜ばしく思っていたのは、間違いなく白瀬太刀の名前を持った彼だった。
それ以前に、彼が何より嫌ったその名前さえもう意味を失っている。創造主たる彼に、恐れという感情は消え去っていた。

呪縛から解かれた不浄な光が彼を取り囲み、キラキラと明滅して創造主を讃える。硝子片に似たそれは死んだ世界を美しく映し続け、空そのものが荒く静かに割れて崩れていくような天蓋を作った。

ゆっくりと浮遊して廻るそれらの渦中に立ちながら、彼がふと思いついて特に酷い世界を映すものに触れると、天蓋は歪み波打ち、莫大な光量と共に膨張し、やがて一瞬の静止の後破裂した。
破片は規則正しい雨になって鋭く降り注ぎ、昏き地を焼き焦がし溶けていった。

地に勢いよく突き刺さる破片を踏み躙って歩き、彼は心の底からの幸せを感じ、世界全てに対する愛を覚えた。
正常な人間から見ればどれも違うのかもしれないが、今の彼は異常を異常と感知する心を捨てていた。苦難や憎悪、果ては死まで幸せになるなら、幼い彼にはそれが一番だった。

これからどんなに酷い未来が待ち受けていても、彼は幸せであるという確信がある。同時に、引き寄せた苦悩や痛みを完全に破壊し、平和を保つ自信もあった。

故に、泣き続ける親友を前にした今、彼は少しの混乱と疑問を感じていた。
皆を傷付けるヒトは焼かれ、罵倒も恐怖も無い世界で、一体何を悲しんでいるのか?一体何が親友を苦しめているのか?
何故?と問おうにも、水分が枯れて切れた唇で上手く言葉を紡ぐことは叶わず、どうしたらいいのかよく分からないまま彼の前に膝を折る。

「黒瀬?」
「……」
「…………黒瀬は」

「黒瀬は、私が守るよ」

本物の愛を底に含んだ、しかし異様な響きの甘い声が顔を伏せた剣士の耳に届く。
それは彼にとって重い衝撃であるはずだが、それを感じ取るより先に白く硬い腕が絡まるように彼を抱き締めていた。

「白、瀬……?」
「お前を傷付けるモノはみんな消してやるから。ずーっと守ってあげる。だから、もう泣かないで?」

ゆったりと詰め寄り、聴く者を魅了する、あるいは恐怖させるどろりとした声色で、純粋な想いを込めて囁く。
壊れ落ちた心の破片はもはや見当たらず、光を湛えた奇怪な精神を焼くものは何処にも無かった。
狂気に堕ちきった紅い眼が、同じく紅い眼を見下ろし貫いた。

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花梨(プロフ) - 皆さまお疲れ様でした〜 (2018年9月14日 22時) (レス) id: e3aad0174a (このIDを非表示/違反報告)
透明少女(プロフ) - お疲れ様でした!あまり参加出来ずにいて申し訳ありませんでした…!本当にありがとうございました!! (2018年9月14日 21時) (レス) id: 6dddb2cb16 (このIDを非表示/違反報告)
睦都(プロフ) - 初めからずっと見てました!主催者様、参加者様の皆様お疲れ様でした!剣士君たちとても好きです(*^^*)ほんとうにお疲れ様でした (2018年9月14日 19時) (レス) id: 3a040f6594 (このIDを非表示/違反報告)
羊素。(プロフ) - 遂に完結ですか…少し寂しい気もしますが、主催者様、及び参加者の皆様、お疲れさまでした。 (2018年9月14日 5時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉 - お疲れ様でした! (2018年9月13日 18時) (レス) id: c46d432f11 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:カレーライス x他10人 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2018年8月4日 11時

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