No.52 ページ3
彼の脳内を、今まで生きてきて一番というくらい様々で沢山の想いが交錯する。
――生きていたんだ、よかった!もう会えないかと思ってた、私と同じ事を思ってるのか、私の事覚えてるかな、あのお守り今も持ってるかな、また一緒に遊びたい、会えてすごく嬉しい――
青年の話など耳に届かなくなる程だった。人形の頭に添えた手は震え、集まった光を握りしめたまま、丸くなった瞳から零れそうになる涙を堪え、自分の顔が恐らく喜色満面といった様子であろうことを自覚するので精一杯だった。
親の姿を見つけた幼子の様に彼の目は輝き、片手の光を捨てておもむろに前髪を除ける。血に染まった楕円に映るのは、間違いなく大切な友人だった。
彼が幸せそうに見詰めている事には気が付かない青年が語り終えると、人々のどよめきを背に青年はにやりと笑って歩き出す。足が固まって動けない彼と一瞬すれ違った時、彼は青年の腰元に自身の首に提げたものと同じお守りを見た。固い絆を意味する朝顔の模様が刻まれた、彼にとって金より宝石よりもずっとずっと価値のある大切なお守り。
それを見て我に返った時には、もう青年は彼の後ろを歩いていた。親指を下に向けているように見えたのは気のせいだろうか。気のせいじゃないとしたら、なんだかまだまだ子供な気がする。
だが、今はそんな事を穏やかに考える余裕なんてなかった。また一緒に話したい、遊びたい、そんな思いばかりが彼の心を占める。
自分は少し歩き続ける体力すらまともに無いと、ついこの前改めて思い知ったばかりなのに、彼は青年の後を追い始めた。生憎足の遅い彼では、成長して元気一杯な青年には声が届きそうな範囲に追いつくのすら困難で、どちらかというと尾行しているようだったが。
彼はそれでもよかった。今再会出来て、その成長した姿を見ていられるだけで幸せだった。
やがて彼は、子供がちょっとした悪戯を仕掛ける感覚で、ふと青年の後をこのままこっそりつけてみようと思い立った。どこでどんな暮らしをしているのか?友達や家族は?数年越しに見た青年に対しての興味は尽きず、それはとても楽しい事のように思えた。
ポケットに入れた駄菓子を一緒に食べたいとか、帰りが遅くなってまたモモと風牙が騒ぐなとか考えながら、彼は青年の後ろを歩き始めた。
これが敵の本拠地へ一人で飛び込む事だと分かっていたら、彼はそうしなかっただろうか?
否、それはない。だって、あの青年は大切な友人なのだから。
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すふ丸@課題消化につき低浮上(プロフ) - 盛り上がってますね……!更新ペースが落ちないので凄く安心感があります。えげつない量の課題を与えられてしまったため中々更新はできませんが、皆様が第三部にどう繋げていくのか、企画参加者として今後の展開を楽しみにしております\(^o^)/ (2018年7月29日 13時) (レス) id: d6d481a1f7 (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - 第二部、二つの組織がぶつかってからの怒涛の更新……! 皆様お疲れ様です。 (2018年7月29日 13時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
一酸化炭素。(プロフ) - 遂に幻聴が聞こえ始めたかもしれないウチの子…誰か助けて (2018年7月27日 12時) (レス) id: dc73ea1538 (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - あはー、また謎の文字化けしてる……。一体なぜ。 (2018年7月27日 11時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
ドットコム(プロフ) - Sakiさん» 淋ちゃんは流架さんラブなので必然的に出ますよw (2018年7月26日 21時) (レス) id: e6a479853a (このIDを非表示/違反報告)
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