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＊
「逆に、それに頷かなかったらどうするの？」
「もう二度と誰も死なないように、君を殺す」
そこで初めて、私は烙飛にとって人殺しの罪人だということに今更ながら気が付いた。
烙飛は優しい人だ。そんなの創った私が1番知っている。きっと無闇矢鱈に人を殺したりはしない。
それに、彼は未だ存在していない誰かの為を思っている。私への恨みではなくて、私が創作を続ける限り増えていく犠牲者を思って。その抑止に、私を殺そうとしている。
烙飛の表情はよく見えなかった。前髪が長いのもあるし、街灯がちょうど後ろで逆光になっていた。
表情は見えなくても、そこから声は聞こえる。
「で、どうするの？ もうそんな話書かないって約束できる？ それとも、死ぬ？」
「死んだ方がマシだけど」
「…死にたいの？」
「んな訳ないじゃん。ねぇ烙飛、なんで君が生き残ったか分かる？ 何故あのタイミングで君の母が、想い人が、先輩が、後輩が、上司が。なんであそこで死んだのか分かる？」
それこそ分かる訳ないだろ。僅かに滲み出た怒気が、じわりと空気を震わせる。
私はいい加減砂場に横たわるのをやめて、砂をほろった。死に姿が砂だらけなんて嫌だ。烙飛の事だから、きっと一瞬でやってくれる。
「この世界には数多に…そして圧倒的な数で、“無害な命”っていうのがある。例えその命が死のうと、生きようと、どちらにしろ世界に影響を与えない。そういう命。君の物語で死んだ多数は、その無害でありきたりなどこにでもある命。私もそう。だから強いて言うなら君に殺されるなら良かった」
骨の尖った先端が私の喉に向く。
そういえば家を追い出されてたんだった。さすがにこの死に方はお父さんが可哀想。
「なんで…君、頭おかしいんじゃない？」
ああ、私もおかしいと思う。死にたくないけど、ちょっと君になら殺されてみたいかも。だって、きっとそこには意味がある。君は今、君の言う人殺しの元凶に刃先を向けている。誰かの為に。
いもしない存在の為に死ぬなんて御免だけど、生憎逃げられそうにもない。
不思議と、頭の中には唯一ずっとこの人生に付き合って貰っていたお父さんやお母さんや姉の顔が思い浮かんでいる。走馬灯じゃないけど。
吐き捨てるように私は言った。
「烙飛は私とは違うから。主人公だ、その仲間も必要とされる大きな命だ！ 私の命は！！ “ありきたり”だから！！」
──ありきたりの生 end
続く
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