◆ありきたりの生 ページ4
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テレビで通り魔のニュースが流れていた。学生2人が怪我をしたらしい。
「怖いですね」全然そうとも思っていなさそうなニュースキャスターが、すまし顔で言った。ニュースの内容が頭に入っていないんだと思う。仕事だから。
午後3時。学校から帰った後は大概真っ直ぐ自分の部屋に行くのだが、今日は配布物があったのでそれを渡さねばいけない。配布物を置いてすぐ部屋に行けばいい話だが、驚いた事に私はソファに座ってニュースを見ていた。動くのが面倒くさくなってきた。
隣に座ったお母さんが言った。
「語、もし自分と友達が通り魔に遭っても、絶対友達を庇おうとしちゃダメだよ」
「は? なんで」
「語だったらそうするから。するでしょ?」
「……まぁ」
「だから、通り魔だけじゃなくて事故とかでも、友達を守ろうとしたりしなくていいよ。友達と全力で逃げなよ?」
お母さんの吐いた言葉の一つ一つが、情報以上の意味を持って私の鼓膜を震わせていた。
だって、確かにそうだ。私だったらそうする。
だけどそれはきっと“友達を思って”の咄嗟の行動ではなく、既に分かりきっている“自分と友達の命を天秤にかけて”の行動だ。
お母さんにとっては、我が子なのだから当然私の命の方が重いに決まっている。けれど、私にとっては、のうのうと時間を貪り、嘆き苦しみ、痛みから逃げ、惰性に身を任せてばかりのこの生命は、どうしても有ろうが無かろうが世界に影響を与えない、どこにでもあるモノにしか感じられない。世界の酸素をただただ消費し続ける迷惑な呼吸器でしかない。
こんな事を言ったら怒られるのは目に見えている。幼稚園の頃「生まれてこない方が良かったんでしょ」と言ったら大激怒された。
だから、全然そうとも思っていないのに「わかった」とすまし顔で言った。
私が誰かの為に死ねるのなら、それはそれは名誉な事だ。私にとっては友達は少ないものだし、一人一人が大切だった。だから、きっと私の命より重い。
階段を上って左から2番目の部屋に入る。私の部屋だ。紺色のカーテン、紺色の布団カバー、紺色の絨毯。赤が好きなのだけれど、青で統一してしまった。
ベッドに寝転がってタブレットを開いた。サイトで投稿している小説の、続きを書かなければいけない。
「(バラトだったら否定するんだろうなあ)」
私の命の方が軽いって事。バラトはそういう人だ。いやバラトだけじゃなくて、私の創った人達のほとんどが。そういう人達だから。
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