幹部utと婚約者 ページ1
『苦しく足掻いて、縋ればいい。』
＿＿＿
冷たく吐き出されたのは惜別の声だった。惜別と入っても、その別れを惜しんでいる様子など微塵も見受けられなかったが、目の前の男──お父様は書類に視線をやって淡々と告げた。
まるで私がお荷物だと言いたげな眼差しはこちらに向くことなんてなくて。
「お前の婚約が決まったぞ。」
お母様も同じく、愛情は常にお姉様へ向けられていた。容姿端麗、頭脳明晰の才色兼備。音楽もできて、そんな完璧なお姉様。いつも私から愛を奪っていくのはいつも彼女だった。家族の中はもちろん、私の友達だった者も姉の存在を知ってからは私になんて目もくれなくなった。それが何度あったことか。
そして今回も例外ではなく。息を呑んで婚約の相手の名前を伺えば、自分の絶望的な未来なんて容易に想像できた。
「我々国幹部の鬱様だ。」
「……っ、お父様。その方はお姉様と婚約なさられていたはずでは、」
この方とお姉様の婚約を聞いたのは先月の事だった。自分の家が貴族だということもあり、姉妹両方とも政略結婚は免れないと思っていたが、まさか幹部だとは思ってもなかったから結構驚いたのを覚えている。
「アリスならもっと立派な人と結婚できると思ったから取りやめたのだ。それでも軍とは繋いでおきたいからお前を嫁がせることにした。……口応えでもする気か？」
反射的に首を振ると、威圧的にやっとこちらへ向けられていた視線はまた目の前の書類へ。先日中庭で仲睦まじく話してらっしゃった御二方を見たのに、これで婚約なんて気まずすぎると思った迄だった。…一度お姉様へ向けられた愛情が私に来ることなんて絶対にありえない、だから私は残りの人生を捨てることを決心したのだ。
「……了解致しました。」
＿＿＿＿＿＿
os「Aちゃん、今日は一緒にお茶でもせん？」
結婚からはや数ヶ月がたった。にこやかにお茶のお誘いをしてくださるのは幹部の1人、オスマン様だった。深緑の細められた瞳が憎悪と嫉妬に燃えることなんてなくて、私にとっては唯一頼れるところで。
「あ、でも本日は鬱様の婚約者として出ないといけないパーティがございまして…」
ut「要らんわそんなもん。ほかの女連れてくけどええか？トン氏。」
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