傷だらけのマスク男子【BLオリジナル】

◆＊◆ ページ16

俺は香月さんと駄弁りつつ、店に戻った。

ふと顔を上げたら、香月さんの兄と目があってしまった。

さっきあんな話を聞いてしまったから、イライラと一応愛想良くしなければ、といった気持ちが混ざり合ってすごく複雑だ……

なんて、俺が悶々としているのを知ってか知らずか、香月さんの兄は俺にニコリと笑いかけてくる。

初めて見た時からずっと変わらない、胡散臭い笑顔。俺はとりあえず笑い返したけど、うまく笑えてたかな……

俺が自分の表情を気にしていると、香月さんは兄に手を振り、そのまま兄の方へ歩いて行く。

そして、この人から発せられたものかと疑ってしまう、キャラ崩壊レベルの優しい声で言った。

「にーさん、勝手に店抜けてごめんね？」
「ふふ、別にいーよ……それよりるーちゃん、また傷、増えた？」

香月さんのマスクをぐいと下げて傷を撫でる兄。声も顔も、ちゃんと優しい感じなのに、どこか狂気じみていて、やっぱり普通じゃないと思った。

てかるーちゃんって呼ばれてんのな……さっき俺、香月さんの下の名前は聞いてなかったな……

うーん、兄も香月だからややこしいよな……なんか気分的に嫌だし、店閉まってから香月さんが暇そうな時にでも聞くか……

「かわいそうに……」
「ふふ、別に大丈夫だよ」

……かわいそうってこいつ……お前のせいなんだろ……？

なんかモヤモヤしてめっちゃ腹立ったけど、香月さんがちらと此方を見て"余計な事すんな"と目で訴えてきたのでぐっと堪えた。

……でも、歪んだ背景すら見なきゃ、普通に仲の良い兄弟に見えるな……

◇another story 01◇→←◆＊◆

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