最終話後編 「貴方だけの音を」：１ ページ22
別れを告げて駆けだした彼の背中を、私は手を振って見送った。いつの間にか口角が上がっていることに気付き、慌てて口元を隠す。
その時、校内放送が流れた。
『まもなく、ライブステージが始まります。参加者は体育館裏へ、お客様は入り口へチケットを＿＿＿』
はっとして、私は胸ポケットに入れていたチケットを取り出す。これがあれば、私はライブを閲覧することができるのだ。
『ぜひ、貴女に…Aさんに見に来てほしいんです。都合が合えばでよろしいので、来て頂けますでしょうか？』
脳内で彼の言葉を反芻する。考えるよりも先に、私は体育館へと足を向かわせていた。
体育館はいつもの雰囲気とは全く違う空気に包まれており、ステージに注がれたスポットライトと大量の視線。それはまるで、本物のライブが開演する前かのような緊張と高揚感で埋め尽くされていた。
「あれ、君は体育祭の時の…」
どこかで聞いた声がしたので後方を見ると、薄暗い空間の体育館に長身の女子生徒が立っていた。三年生だろうか、銀髪のポニーテールが揺れており、自信満々に胸を張っている。
「えっと…楓先輩、でしたっけ」
「あはは、そんなにかしこまらなくたってええよ。ライブ、見に来たん？」
関西弁を流暢に使い話しかけられ、私は素直に頷く。私の手に握り締めていたチケットを見ると、楓先輩は何かを察したように笑って。
「そのチケット、誰かに貰ったん？」
「え？そうですけど、どうして…」
「だってそれ、文化祭の三日前に特別に発行されてるチケットやん。ほら、ここ」
楓先輩は私が持っていたチケットの裏面、発行日を指さした。そこには確かに、今日の三日前…つまり、本来の発行日よりも少し早めに特別に発行されたものだった。まるで私に渡すために発行したかのように。
「よっぽど見に来てほしかったんやろなぁ。その気持ち、よく分かるよ」
腕を組んでうんうん、と深く頷く楓先輩。紫色の瞳をじっとこちらに向け、心底嬉しそうに語る。
「私も今日、吹奏楽部としての最後のステージ…家族に見てもらえたらすっごく嬉しい。だからきっと、それを渡してくれた人もAちゃんが見てくれたらすごく嬉しいんじゃないかな」
にっと歯を見せて笑う楓先輩。その言葉を受け取った私は、少し余韻に浸った後短くお礼を告げた。楓先輩は「いいって」と照れ笑いした後遠くから名前を呼ばれ、その方向へ走って行った。
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こみ - 私もこの1年間高2A組だったのですごく嬉しかったです！幸せでした！ (2021年4月4日 15時) (
レス) id: a0adc0f2be (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - ばちぅ兼もてゃさん» こんにちは。コメント、そして読了ありがとうございます！続編の方は別のお話と同時進行の予定ですので、もうしばらくお待ちください。 (2020年6月20日 18時) (レス) id: 472e77b4e7 (このIDを非表示/違反報告)
ばちぅ兼もてゃ - こんにちは...ばちぅ兼もてゃです...最初から最後まで全部読んでました、執筆お疲れ様でした！続編も楽しみにしてますね、もちろん読みます (2020年6月20日 18時) (レス) id: 603073c1b4 (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - 蒼渇さん» 蒼渇さん、コメントありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。よければこれからもお付き合い頂ければ励みになります。 (2020年6月2日 14時) (レス) id: 472e77b4e7 (このIDを非表示/違反報告)
蒼渇(プロフ) - ひぇ…めちゃくちゃキュンって来ました…好きです！！！！！！！無理せず更新頑張って下さい！ (2020年6月2日 10時) (レス) id: c685f96854 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：伊織 | 作成日時：2020年5月30日 14時
