第十九話 「想いの芽生え」：１ ページ12
その日私は、電車に乗って隣町のショッピングモールに来ていた。
母からのおつかいと、欲しいCDがあったので面倒ながらも仕方なく来ていた。
夏休み、このショッピングモールに四人で来たなぁとかそんな美しい思い出に浸りつつ、おつかいのメモを見ながら店内を散策していた。
本当に、あの日は楽しかった。
友達がいなかった私にとっての、初めての友達。そして、気になる人と過ごした時間。
あの夏の日を、私はきっと一生忘れないだろう。
そんな風に思い出に浸りながら無事買い物を終え、すっかり重くなった鞄を右手に下げて入り口に向かっていた。
秋に入ってもうしばらく経つが、今年の夏の暑さがまだ少し尾を引くように残っていた。
こりゃあ制服もまだ合服のお世話になるな、とか考えて歩いていると、ふと視界に入った本屋に見慣れた人物が立っていた。
黒いシャツの上に薄いジャケットを羽織り、長い脚にジーンズを穿いているハヤトさんの姿だった。
私は声を掛けようと小走りになって歩み寄る。思いもよらぬ幸運に、無意識に口角が上がってしまう。
「ハヤトさ＿＿＿」
そう声を掛けようとした、その瞬間。
「ハヤト〜、買い物終わったよ〜」
本屋の店内からぱたぱたと小柄な少女が出てきて、ハヤトさんに気さくに話しかけていた。
同い年くらいだろうか。雪の様な二つ結びの白髪と深紅の丸い瞳が印象的だった。
「それで、買いたいものって何だったんですか？」
目を細め、優しく少女に問いかけるハヤトさん。その顔はいつも私に対して笑いかけるような顔だった。
「これこれ！じゃーん、ビスマス結晶実験セット！」
少女は本屋の名前が書かれたビニール袋から少し大きめの箱と分厚い雑誌を取り出し、心底楽しそうにハヤトさんの方に笑みを向けていた。
「何ですかそれ…」
「ふふん、ビスマスっていう元素があってね、その物体を…」
得意げに鼻を鳴らして語り出す少女と、それを楽しそうに聞くハヤトさんの姿。
二人のその姿に、私は不意に胸がチクリと痛む感触を覚えた。
喉元までこみ上げる、今まで感じたこともなかった感情。耐えきれなくて、私は近くにあったトイレに駆け込んだ。
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こみ - 私もこの1年間高2A組だったのですごく嬉しかったです！幸せでした！ (2021年4月4日 15時) (
レス) id: a0adc0f2be (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - ばちぅ兼もてゃさん» こんにちは。コメント、そして読了ありがとうございます！続編の方は別のお話と同時進行の予定ですので、もうしばらくお待ちください。 (2020年6月20日 18時) (レス) id: 472e77b4e7 (このIDを非表示/違反報告)
ばちぅ兼もてゃ - こんにちは...ばちぅ兼もてゃです...最初から最後まで全部読んでました、執筆お疲れ様でした！続編も楽しみにしてますね、もちろん読みます (2020年6月20日 18時) (レス) id: 603073c1b4 (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - 蒼渇さん» 蒼渇さん、コメントありがとうございます。楽しんで頂けたようで何よりです。よければこれからもお付き合い頂ければ励みになります。 (2020年6月2日 14時) (レス) id: 472e77b4e7 (このIDを非表示/違反報告)
蒼渇(プロフ) - ひぇ…めちゃくちゃキュンって来ました…好きです！！！！！！！無理せず更新頑張って下さい！ (2020年6月2日 10時) (レス) id: c685f96854 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：伊織 | 作成日時：2020年5月30日 14時
