ファイナルゲーム論 ページ42
「じゃあ、引くね」
太宰はそう前置きして、ゆっくりと引いた。
わたしは自分自身どちらが当たりか判っていない。
引かれた割り箸は太宰の手によって隠されている。
焦れったい。
そして、太宰は割り箸にそっと手を触れた。
──今、色、付けた。
そして手を退かす。
「当たりのようだね」
そう云って笑った。
「違いますよ。だって──」
それはわたしの描いたうさぎじゃないから。
もう一本の割り箸に手をかけて引く。
「え…」
その割り箸には、何も描かれていなかった。
「何を、したんです?」
「何もしてないよ。変な勘ぐりは止めて呉れ給え」
「………」
大丈夫、次、わたしが当たりを引けば──
引けるのか?当たりを。
また、何もかかれて居なかったらどうする?
かと云ってかかれているのに書いてないでしょ。と云ったら恐らく異能力の云う推理ミスに入る。
だったら──その前に消えた謎を暴く!
そう考えている内にも無慈悲に時は過ぎ、
「出来たよ。引き給え」
わたしのターンだ。
「で、では…」
息を吸う。
刺激臭と、アルコールの臭いが鼻を突く。
「っ!アルコール!」
わたしが叫ぶと「あらら」と太宰は笑った。
「アルコールですね!この紙の袋に元々アルコールが塗られていたんです!
アルコールには油性ペンの色を落とす効果があります!紙の袋の中にアルコールを付けて置いて、出した時にアンモニアで色付けする!
二セット目でこの方法を使った時は上手く行かなかったけど、三セット目までに時間があった。わたしが推理する為に部屋を回ったりしたからです!
証拠はこの臭い!そうですね、太宰さん!」
わたしが興奮のあまり捲し立てると、太宰はにこやかに笑って云った。
「肝心な所が読者に説明出来ていない」
と。
「私達はゲームを実際に行っている人だ。その人達はそれぞれに思考を持っている。『自分はやっていない』『だから、相手が犯人だ』ってね。
しかし、読者は違う。読者に目線では『どちらも疑わしい』なのだよ。
其れはどちらにせよ利益があるからだ。
私は言わずもがなだが、Aちゃんは自作自演ならトリックも細工も判る。其れを私の処為にすれば『ルールを破った私の負けだ』。そうだろう?
其れが君の利益だ。
云っただろう?私がやったと云う証拠が無い。と」
何も、言い返せない。
負けなのか?
「だからこうしよう。
君が当たりを引いたら君の云うトリックをやったと認めよう」
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爽斗 - せれな さん» 本当ですか!!ありがとうございます!!頑張ります!! (2021年8月27日 22時) (レス) id: 5b5562e114 (このIDを非表示/違反報告)
せれな - 本当に面白いです これからも応援しています! (2021年8月25日 20時) (レス) id: 6fed7b85b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:爽斗 | 作成日時:2021年7月15日 2時