私は今日もトスを上げる【3】

113話：私は今日もトスを上げる ページ15

黒尾さんは会社で、翔陽が久々に家に遊びに来ていた


｢なぁ、陽奈！結婚前にいいとこ連れてってやるよ！｣


翔陽は思いついたような笑顔で言った


『んー、それはいいけど翔陽、あんた今日練習は何時からなの？』


｢休みも立派な練習なんだぜ。陽奈｣


翔陽は何故かキメ顔で言った


『んで、いいとこって？』


｢無視か！｣


翔陽について行き、電車に乗ること数十分


そこはMSBYの施設だった


『はぁー……帰るね』


｢なんっでだ！｣


『私入れないし、関係ないし』


｢いや！ある！すっごくある！入れるぞ！陽奈は部外者じゃなくて俺の妹なんだし｣


翔陽はそう言ってグイグイ引っ張って行った


いや、力強！


体育館前に到着するが、中には誰もおらず静まり返っていた


『あのさぁ、MSBYのOPがそんなんでいいの？』


陽奈はため息を吐く


｢いいから、いいから！それにさっきも言ったけど、陽奈は部外者じゃないだろ？｣


MSBYのために用意された体育館という贅沢な場所で、翔陽が言った


陽奈は家族も部外者に入るのでは、と内心苦笑しながらも言っても聞かないだろう片割れに渋々体育館に入る


｢陽奈！｣


翔陽はボールを持ってコートのサーブ位置についた


言いたいことは明白で、表情がそれを雄弁に伝えている


『うん』


陽奈は翔陽に笑いかけて、ボールが上がるのを待つ


ボールが綺麗に上がり、陽奈は口角を上げた


あれから6、7年ほど


翔陽、あんたは本当に強くなった


あの頃は女子で妹の私の足下にも及ばないほど下手くそだったのに


今では私よりもずっともっと先にいて、プロ選手で、世界を目指してる


それなのに、私のトスを何度も呼んでくれる


下手くその時からずっと




だから私は今日もトスを上げる




バンッと向かいのコートに強く叩きつけられたボール


『翔陽、強くなったね！』


｢だろ！！｣


そう言って嬉しそうに笑ってくれるあなたに

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