初心な僕らは恋を知らない (ページ36)

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長尾『俺いま外におって、うるさくない？』

「うるさくないよ。私も外なんだけど大丈夫？」

長尾『大丈夫。ちゃんと聴こえてんで』

携帯を耳に当てたまま、なんとなく行き先もなく歩く。
人混みに飲まれながら、大きな横断歩道で立ち止まった。

横断歩道の向こう側も人でいっぱいなのが見える。

「長尾くんはどこにいるの？」と訊ねようと口を開きかけると、大きなサイレンを鳴らしながら、救急車が目の前を横切った。

そして、一拍遅れて
電話口からも同じサイレンの音が聴こえた。

長尾『——そのまま、そこで待っててくれる？』

妙に落ち着いた長尾くんの声が、私の心臓を騒つかせる。

横断歩道の先、赤信号のちょうど下あたりに
携帯を耳に当てた人影が見えた。

その人影は、こっちに向かって小さく手を振る。

キャップを深く被った、その姿。
見間違うはずがない。

長尾くんが、そこにいた。

長尾『青になっても渡らんといて。
そのまま、俺の話聞いて』