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長尾side
「長尾くんはどうだった？ やっぱり身内が出てる映画だと見え方も違うのかな」
長尾「あ、俺？」
「うん、出てるのが道枝くんだと、なんか特別に思うこととかあるのかなって」
正直、話半分にAさんの言葉を聞いてたから、言葉に詰まった。
それでも、Aさんは興味津々な眼差しを俺の方に向けてくる。
「ごめん聞いてへんかった」なんて言うたらガッカリされんねやろなぁ、なんてことを思って、頑張って頭の中に散らばってる感想の断片を拾い集める。
長尾「特別、何か思うってことはあんまりないかな。この映画の主演、うちのメンバーやねんで！ってちょっと自慢したくはなるけど」
「あ、そうなんだ」
長尾「それより、メンバーが出てることだったりはあんまり関係ないんやけど、なんていうか、いいなぁとは思ったかな」
「いいなぁって？」
長尾「いい映画とかドラマとか見てるとな、エンドロール見ながら、俺はなんで出てへんねやろって思うねん。俺も仲間に入れてほしいって」
それはたぶん、今回も思った。
俺もやりたい、俺も作りたいっていう気持ちは、メンバーだから感じるわけじゃなくて、誰が出演してても感じたんやと思う。
だって俺は、この気持ちでアイドルになって
この気持ちでここまでやってきた。
正直な思いを口に出すと、目の前にいるのが俺の好きな人だってことすら、頭の端に追いやられてしまう。
AさんもAさんで、気付けば仕事中の、取材をしてるときみたいに真剣な顔になっていた。
「……ちょっと分かるな、それ」
長尾「ほんまに？」
「うん。私も素敵な雑誌とか本とか読んだ後に奥付見ながら、ここに名前が載ってる人たちはどんな人生を過ごしてきたんだろうとか、私はどうしてそこに私の名前がないんだろうって、思うよ。ちょっと照れ臭いけど」
長尾「照れ臭くなんてないよ」
「……そうかな」
長尾「じゃあ、Aさんは俺のこと恥ずかしいヤツやって思う？」
「思わない。思うわけないじゃん」
長尾「俺も同じやで。Aさんのそういうところが格好良いし、好きやなって思う」
自然に、本当に自然に言葉が溢れた。
Aさんと付き合う前に、どうにかしてAさんを振り向かせたいと、しつこく伝えてきた「好き」とは違う。
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作者名：雨野 | 作成日時：2022年7月31日 22時
