初心な僕らは恋を知らない (ページ1)

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1-1 Prologue ページ1

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月末、
校了の修羅場を超えた私は、人気のないオフィスの照明を消した。

エレベーターでも誰とも会わなくて、
こんなことで月の終わりを感じる生活に、なんとなくひもじさを覚える。

それでも、そんな味気ない生活でも彩りを与えてくれる人はいて、
携帯のロック画面に目をやると、
彩りをくれる、まさにその相手からいくつかの短いメッセージが届いていた。

『こっちは仕事終わったで〜』

『Aさんはまだかかりそう？』

『遅くなりそうやったら、迎えに行ってもいい？』

『携帯見てやー』

『ほんまに迎えに行くよ？』

「えっ、嘘でしょ」

全てのメッセージに目を通して、思わず声が漏れた。

いや、いやいや、迎えに来なくていいよ。
迎えにって、えっ、会社に？

大慌てで彼宛てに電話をかけてみるけど、耳にあてた携帯からはコール音しか聞こえてこない。

エレベーターが1階に到着して、携帯を耳にあてたまま、私はエントランスに向けて駆け出した。

と、同時に
電話口から電子音に変換された彼の声が聞こえてきた。

『——あ、もしもし、Aさん？』

「長尾くん！？えっ、あの迎えにってどういう」

『仕事終わったん？』

「終わった、けど」

『会社出てもうた？』

「いや、ちょうど今出るとこ……ろ——」

きっと、私は今とんでもなく間抜けな顔をしてる。

会社のエントランスを出て、人気もまばらなオフィス街の路肩には、見慣れない軽自動車が止まっていた。

そのボンネットに半分腰掛けるように寄りかかっているのは私の、年下の恋人だった。

長尾「——お疲れさま、Aさん」

携帯から聞こえてくる電子音に変換された声と、反対の耳から聴こえてくる生の声。

突然のことに、言葉が出てこない。

マスク越しでも、長尾くんが私を呼んでいるのだと分かって、
私はなんて人と付き合ってるんだと、気が遠くなった。

長尾「——Aさん迎えに来たくて、車借りてきてもうたからさ。
これからどっか行きません？」

時刻はそろそろ23時。
こんな時間にどこに、って思ったけど
無力な私に拒否権なんてない。

いや、きっと私が嫌だと言えば、長尾くんはこのまま家に直行してくれるんだろうけど、そういう意味じゃなくて。

「うん、どこでもいいよ」

私は、長尾くんのことが大好きだから
拒否権なんて無いってこと。

だって、私が頷けば
長尾くんは心底嬉しそうな表情で喜んでくれるって知ってるから。