短編集 1 (ページ46)

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ひとり 2 ページ46

青side

「安田さん、安田さん、忘れ物ですよ。」

マネージャーに呼び止められて、ふと我に返った。

「安田さん、ネズミのカチューシャ、忘れてますよ。」

「あ、ごめんごめん。忘れてたわ。(笑)」

笑ってはみたものの、自分でも顔がひきつっているのがわかる。

カウントダウン恒例、年男達が歌う歌があるのだ。

それも、頭に干支のぬいぐるみをつけて。

それが嫌だったんだろうか。

同期で入所した彼。

双子とも呼ばれたこともある。

一緒にこのステージに立つものだと思っていた。
っていうか、立っているだろうと信じていた。

何でおらんくなってしまったん。

俺をなんでこのステージに一人にしたん。

ステージの上には、同じ干支の人達がスタンバイしている。

「ほら、早くしないと。」

大倉が頭のネズミを直しながら、俺の背中を
押した。

俺、頑張って歌ってくるよ。
だからこの姿、テレビで見ててくれると嬉しいな。

と、前向きに考えてはみるんだけど、
こころにぽっかりあいた穴はなかなかふさが
ることもなく、

今にも降り出しそうな俺の目。

サングラスがあって良かった。