短編集 5 (ページ29)

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七夕のお願い。④ ページ29

やすside

七夕当日、

京都で舞台が始まるおーくらが旅立つ日。

ほんまは駅まで送っていきたかったんだけど

俺も芝居の稽古があるから時間がなくて、

せめてと思い、

おーくらのマンションまで自転車を走らせ

た。

ピンポーン。

玄関先で俺はおーくらにショーティを手渡し

た。

「俺の代わりに連れてってくれる？」

するとおーくらは今度はタディを俺に手渡し

た。

「俺のも連れてってくれる？」

「お互い考える事は一緒やね。」

「ほんまやね。」

そう言うと、ショーティを大事そうにカバン

にいれた。

「では、行ってきます。」

笑顔で出かけていった。

あー、俺の彦星様が行ってしまわれた。(笑)

無事に帰ってきてね。

織姫は待っております、と

彼の背中にそうつぶやいた。

さて、俺も稽古場いかなきゃ。

稽古が終わったのは、夕方になった頃だっ

た。

空が夕焼けの赤に染まっていた。

これで無事、彦星様と織姫様は出会う事がで

きたかな。

そう思いながら、自転車に乗った。

帰ったら、おーくらからLINEくるかなぁ。

案の定、帰って携帯を見ると、おーくらから

LINEが入っていた。

「やす、お疲れ様。」

「俺は無事に京都に着いたよ。」

「ホールはね、まだジュニアの頃に出たこ

とがあったホールだったよ。」

「またこの舞台に立てるなんて、感慨深い

よ。」

「今まで頑張ってきてほんま良かったよ。」

「やす、ありがとう。

今まで頑張れたのは、お前がそばにいてく

れたからだよ。」

「これからも、よろしくな。」

「お土産たくさん、買って帰るからね。」

俺は携帯を握りしめ、その場にへたり込んで

しまった。

東京と京都。

こんなに遠くにいるのに、

心はめっちゃ近く感じる。

七夕の夜にこんな穏やかな優しい気持ちで

いられることに感謝だな。

俺もおーくらに感謝の気持ち伝えなきゃ。

俺の願いは短冊に込めてきたんだけど、

本人にもちゃんと伝えなきゃね。