57話写真立て ページ15
天気のいい日差しをカーテンで遮らせている部屋で青年は、書類にペンをはしらせ黙々と執務をこなしていた。
誰かがノックすると、彼はピタリとはしらせていたペンを止める。
「誰だ。」
「失礼します。調べがついたのでその報告を持ってまいりました。」
(…やっとか)
青年の依頼から僅か数日。_だが、彼にとってかなり遅い方だった。
薄い紙の束をもらって、その持ってきた男を下がらせるとすぐにその内容を確認した。
「…やはりな」
その紙をくしゃりと潰し、青年は口を歪める。
腹ただしことこの上なかった。
なぜ自分は今まで知ろうともしなかったのか、
なぜ連絡先を教えただけで安心しきってしまったのか、
なぜ日本に帰るあの子を引き止めなかったのか、
…ふつふつと湧き上がる感情を抑えきれず、…落ち着かせようと無意識に写真立てに手を伸ばした。
その写真に映る子は家族でも何でもない、言わば赤の他人。それでも自分の大切な人に変わりない。
風に飛ばされないように花冠を手で抑えながらこちらに微笑みかける幼女。
淡い黄緑のひらひらしたワンピースがプラチナブロンドと碧眼によく似合っていた。
手にとってその子の頬をそっと撫であげると、心が洗われていく。自然と固くなっていた顔が緩んでいった。
『ベルおにいさま!』
そう呼んで優しく笑いかけてくれる彼女は可愛い天使だ。
小さな彼女に何度救われたことか…。
追いかけても追いかけても、死んでしまった父の偉業には遠く及ばず、母からの追い打ちに壊れそうなこの心境だからか…彼女が一層愛おしく感じる。
だから、苛立っていた。
明らかな異変を察知したのは数カ月前…あの子と親しい弟から「手紙の返事が来ない」という話を聞いた。
優しいあの子に限って手紙を返さないことはない。
心配になったがその時はまだ完全に財団のすべてを自分の手中に収めきれず不安定であった上に、予定がずっと立て込んでいた。自分にできることといえば、彼女の家に電話で召使いに連絡を取らせる程度しかできなかったのだ。
ようやくこの頃になって財団も落ち着きを取り戻し、自分も彼女の異変に本腰を入れようとしたのだが__やはりあまりに遅すぎたらしい。
彼女の身が危険に晒されている。
すぐさま行動を急いだ。
仕事をこなしつつ、入念にそして穏便にことを運んだ。裏に手を回し掌握していった。
今読んでいた報告書がその「最後」の関門だった。
「…行こうか。」
もう行く場所は決まっている。
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沙稀乃(プロフ) - 橋本アリィちゃんさん» ありがとうございます!(*´∇`*)私の頭がポンコツのため、なかなか進みませんが、よろしくお願いします!\( ˙▿˙ )/ (2021年11月5日 0時) (レス) id: 5e2cd7ca09 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - とても面白かったです!続きを待ってます!(*´ω`*) (2021年11月3日 20時) (レス) @page40 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
沙稀乃(プロフ) - ピータンさん» コメ、ありがとうございます!!凄く面白いと言われて、もう既に心が有頂天になってるんでまともに返信ができませんが、本当に嬉しいです。ありがとうございます!更新のろのろですみません…! (2020年8月21日 16時) (レス) id: 5e2cd7ca09 (このIDを非表示/違反報告)
ピータン(プロフ) - すごく面白いですね!これ野坂君がもっと大きくなったらどうなるんだろう?これからも楽しみにしてます! (2020年8月21日 11時) (レス) id: d4faf78640 (このIDを非表示/違反報告)
沙稀乃(プロフ) - こさめさん» え!?本当ですか!!ありがとうございます!!コメント本当にありがとうございます!嬉しいです! (2020年8月18日 17時) (レス) id: 5e2cd7ca09 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沙稀乃 | 作成日時:2020年4月12日 12時