55話 ページ13
(腹を括れ…!A)
夕飯が終わりぞろぞろと帰り始める子供たちの中で私はその子の服を少し引っ張って呼び止めた。
「…あの、悠馬くん」
「どうしたの?」
「…なってもいいよ。友達」
こんなの私には断れないのだ。
わかってる。"ヒロトくん"といた中学も高校時代も周りに流されたのだから今回も変わらない。
友達にうんざりしていた私の肩にその言葉が何十倍も重くずっしりとのしかかるが、それでも私は前を向いた。
「互いの利益を満たすだけの…あの時約束しただけの関係じゃなく、それなりに話して…たぶん今までとほとんど変わらない関係だけど、いいかな?」
今までとそう変わらないって自分で言っているにも関わらず、いざ言葉にすると体がゾワリとした。
取り敢えず彼の反応を待つと、彼の方は首を傾げている。
「利益…?」
「あぁ、難しかったか。利益っていうのは得するって意味で…ってどうしたの?悠馬くん 」
そうまで言うと、彼は耳まで赤くして顔を背けた。
まさか知らなかったから恥ずかしがってる…?
「あははっ…!」
初めて見る光景にこらえきれずついつい笑ってしまった。
「な、Aちゃんっ…!?」
慌てて私の肩を揺さぶる彼を見てると少し肩が軽くなる。
やっぱり始めから友達にならないなんて選択肢はなかったのだ。
話し相手がいる。
それがいかに大事なのか知らない子供なら尚の事、友達は必要だろう。
机に黙々と向き合う日々を過ごすだけなら、彼がこうして照れることも羞恥心を抱く事も…笑うこともなくなって、一人を噛みしめるだろう。
そうなってしまうのなら__
「ねえ、本当に僕と友だちになってくれるの?」
「うん。…あんまり友達らしいことできないから勘弁してね」
「ううん。そんなことない…!」
彼に寄り添う人間がいないのなら、取り敢えず今は"私"を代用品にすればいい。
でも、私にとって友達は枷だ。
私は理屈より情で動いてしまう。自分の本来の目的の方を放置するかもしれないし、肝心な時に動けない状態になるかもしれない。
それでも目の前にいるこの子を見なかったことにして前に進みたくなかった。
(情で動くのは良くないことだけど…貴方でもきっとこうしたよね。"ヒロトくん")
ここにいない遠い人の存在に思いを馳せた。
「Aちゃん、好きだよ。」
「…私は、好きじゃないよ。」
いつかあっちに帰れたら、この世界から私は消える。
未練を残したくない私は曖昧で可笑しな返事をした。
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沙稀乃(プロフ) - 橋本アリィちゃんさん» ありがとうございます!(*´∇`*)私の頭がポンコツのため、なかなか進みませんが、よろしくお願いします!\( ˙▿˙ )/ (2021年11月5日 0時) (レス) id: 5e2cd7ca09 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - とても面白かったです!続きを待ってます!(*´ω`*) (2021年11月3日 20時) (レス) @page40 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
沙稀乃(プロフ) - ピータンさん» コメ、ありがとうございます!!凄く面白いと言われて、もう既に心が有頂天になってるんでまともに返信ができませんが、本当に嬉しいです。ありがとうございます!更新のろのろですみません…! (2020年8月21日 16時) (レス) id: 5e2cd7ca09 (このIDを非表示/違反報告)
ピータン(プロフ) - すごく面白いですね!これ野坂君がもっと大きくなったらどうなるんだろう?これからも楽しみにしてます! (2020年8月21日 11時) (レス) id: d4faf78640 (このIDを非表示/違反報告)
沙稀乃(プロフ) - こさめさん» え!?本当ですか!!ありがとうございます!!コメント本当にありがとうございます!嬉しいです! (2020年8月18日 17時) (レス) id: 5e2cd7ca09 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:沙稀乃 | 作成日時:2020年4月12日 12時