イナゴ×バトルロワイヤル２

虚しい ページ20

一乃はＤー１からＤー２へと移動しようとしていた。エリアに境界線のようなものは存在しないので、とにかく奥へ進もうとした。しかし、天馬がなぜか突然、動きを止めてしまった。

「天馬、早く。まだそこはＤー１だと思うぞ」
「はい。………」

返事をしておきながら、歩を進めようとしない。焦った一乃は腕時計を確認して、禁止エリア発動まで残り三分を切っていることを知る。

「天馬！ は、早く……」
「……一乃先輩」

天馬はにっこりと、どこか悲しげな笑みを浮かべ、こう言った。

「俺、今から殺人者になってもいいですか？」
「…………は！？」

思わず身構えてしまう。

「あ、別に、一乃先輩を殺そうってわけじゃないんです。ただ、死んだ仲間たちの復讐がしたいだけで……もし駄目なら、俺はここで消えます」
「復讐……天馬が…？」

天馬の乾いた瞳が、再び輝いていた。しかしそれは、かつて仲間たちに勇気を与えた輝きではない。復讐と憎悪の念を込めた、狂気の光。

「天馬……」
「駄目ですか？ 先輩、俺が復讐をするのは、キャプテンの務めとして当然だと思うんですけど」

お前まで、狂ってしまったのか。
一乃は心に虚しさを覚えた。手を伸ばしても、声を張り上げても、届くことなく空を掴むだけの虚しさ。皆振り向いてくれない。皆消えてゆく。狂気という名の歯車へ。

「一乃先輩、いいですよね？」

もう一度問うてくる後輩に、一乃は力なく頷いた。

「お前がそれを正しい道だと思うなら、俺はお前を止めたりはしないさ。……後悔、するなよ」


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