人質の育て方【不死川実弥】

報告 ページ6

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「実弥、報告ありがとう。彼女についてもっと知りたいから、彼女に時間が出来たらまた私の所に連れて来てもらえるかな？」
「御意」

　"彼女が目覚めたらすぐに"ではなく、"彼女に時間が出来たら"と言うところがお館様なりの気遣いなのだろう。俺は報告を済ませ屋敷を出た。

「カァー！カァー！蟲柱ヨリ！今スグ蝶屋敷ヘ来イ！蟲柱ヨリ！今スグ蝶屋敷ヘ来イ！」

　俺の鎹鴉がこう叫んだのはお館様の屋敷を出て直ぐの出来事だった。俺はこの足で蝶屋敷へ向かい、朝行った彼女のいる部屋の前で足を止めた。中から話し声が聞こえた。
　いや、訂正しよう。胡蝶が一方的に話しかけている声が聞こえた。

「自分の名前がわかりますか？」
「何故そんな怪我を負っているのか覚えていますか？」

　そんな声が聞こえたが、彼女の声は一向に聞こえなかった。俺は一瞬躊躇したが決心して静かに扉を開けた。彼女は眠りから覚め起き上がっていた。胡蝶はベッドの隣にある椅子に座って彼女に懸命に話しかけていた。しかし当の本人である彼女は胡蝶の方へ顔を一切向けず、ただジッと俯いて自分の手を見ているだけであった。

｢…不死川さん｣

　扉が開いた音に気が付き胡蝶は振り向いて俺の名を呼んだ。その表情はいつもの笑顔ではなく不安と困惑とどうしたらいいか分からないような顔付きであった。

｢…ッ｣

　俺自身どうしたらいいのか分からなかった。焦点の合っていない彼女の眼は俺からしたら恐怖で思わず足がすくんだ。俺がただ呆然と二人を見つめていると胡蝶が椅子から立ち上がり俺の方へ来た。

｢少し、部屋の外へ｣

　胡蝶はそう言って俺と共に部屋の外へ出た。扉を閉めようと部屋の中を見つめるが彼女は俺や胡蝶の方へ振り向こうともせずただずっと俯いていたままだった。俺達に興味が無いのか。それともどうでも良いのか。彼女は自分の置かれている状況を理解しているのか。何故何も言わないのか。そんな事を考えながら、そしてその考えを消し去るように俺は扉をガチャンと閉めた。

｢何を聞いても、答えてくれませんでした｣
｢そうか｣
｢答えるどころか、相槌もせず目も合わせず…まるで死んでいるみたいな、なんと表現したら良いのか…私には分かりません｣
｢…相槌も、しねェのか？｣
｢はい、自分の名前を覚えているのかと聞いても…何も。自分が誰か分かりますかと聞いても、無反応でした｣


　おかしい。彼女は頷く事は出来た筈だ。俺はただ扉の向こうを見つめていた。



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