絶対に医者にさせたい先生VS絶対に結婚したいヒロインVS何も知らない男

第7章 お誘いをしよう ページ17

.


「ほれ」
「何ですかこれ…賄賂？」
「お前はもう少し俺を信頼しろ」

　昼休み。いつも通り美術研究室で不死川を落とす策を二人で練っていた時、ふと思い出した様な口調で俺は志崎に映画チケット二枚を渡した。

「本当は俺が見たかったんだけどな」
「先生が生徒にそんなモノ譲っていいんですか」
「良いわけねえだろ絶対誰にも言うなよ」

　そう言いながら志崎を睨み、再度忠告をする。教師が一人の生徒に映画チケットを渡すなど合ってはならない事だが俺と行く訳ではないためセーフにしといてくれ。

「これ、今流行ってる映画ですよね」
「そうだぞ。前売り券買ってたのに仕方ねえからお前に譲る」
「良いんですか？」
「これ見てさっさと落としてこい」

　今巷で大人気の映画、『ハロー、ハンター。』主演はこれまた大人気アイドルグループであるダーリンのメンバー二人であった。クラスの女子共は目をハートにさせてこの映画の話ばかりしているのを俺は知っている。どっち派かで軽い戦争が起きていたのも俺は知っている。

「そういえばダーリンのリーダーの人って先生と似てますよね」
「バッカ俺の方が百倍良い男に決まってんだろッ！」
「国民的アイドルに対してどこから来るんですかその自信」

　真顔で俺を見つめる志崎に俺はドヤ顔で自身の顔を鏡に映した。いや確かに俺の顔面は派手に整ってて誰もが言わずと知れたイケメンだ。色男だ。二枚目だ。異論は認めない。

「とにかくこれ使って映画行ってこいよ。あと感想教えて」
「先生も行ってきたらどうですか？一人で」
「恋愛映画を一人で行く趣味は持ってねえ」
「じゃあ何で前売り券買ったんですか」
「それまでに恋人を作る予定だったんだよ」
「悲しい現実」
「はっ倒すぞ」

.

　昼休みも終わり、五限目の授業を受けた後の休み時間の事だった。五限目が丁度自習だったらしく、俺が代わりに現場監督として派遣された。美術の授業なんざ週一しかない為、俺は暇人扱いされているのだ。別に暇じゃないけど。
　そして自習時間が終わり、授業終了のチャイムが鳴り響く。俺はチラリと参考書をしまう志崎の姿を見て、アイツがこのたった十分の休憩時間で不死川に映画のチケットを渡せるかどうか脳内で賭けていた。八割無理に一票！

　───────と、思いきや。

「……！」

　あの志崎は直ぐに椅子から立ち上がり、二年一組の教室を後にしたのだ。あまりの行動の速さに俺は思わず舌を巻いた。何あの子…やるぢゃん。
　

次ページ→←前ページ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す