【d!】生 贄

絶望 ページ2

Aside

選ばれた。

否、選ばれてしまったが正しいのだろうか。

私は生まれてから一度も特別というものを感じたことが無かった。特に秀でた事もなく逆に周りより劣っているような事も無かった。少女漫画のヒロインのように皆んなから愛される事も無ければ虐められる事も無かった。ただただ平凡に地味に生きてきた。それだけだったのに。私は人の上に立つ事を好んでいない。上に立つ奴はいつか下の奴等に潰される。そんな事とうの昔に理解していたからだ。

私は人より優れても劣ってもいない。その代わりに生への執着心が凄かった。死にたく無い。ただ、それだけを目標に生きてきた。生きるための目標？そんなモノ考える暇も無い。私は生きるだけで精一杯だから。

しかし、選ばれてしまった。

犬神様に選ばれて帰ってきた者は誰一人として居ない。それどころか、死体でさえも帰って来ない。何が神様だ。そんなの妖怪と変わらないじゃないか。

村の奴等は皆狂ってる。何で人が死ぬというのに笑顔で祝うことが出来るのだろうか。私にとってはそれが不思議でしか無い。

自分以外が異常だと思ったのは私が初めて犬神様の祭壇を祝いに行った時だ。お母さんもお父さんもお姉ちゃんも凄くおめでたい事なんだよって教えてくれた。だから私も心からお祝いしてあげようと思っていた。

でも違った。

実際は男の子が満面の笑みで犬神様の御屋敷に足を踏み入れ、二度と帰って来る事は無かった。初めは不思議に思っていた。何で帰って来ないのだろう。そう、考えていたら外から覗く屋敷の障子に赤色の液体が滲んだ。そんなモノ幼い私でもわかった。血だ。私は恐怖という感情に支配され上手く息ができていなかったと思う。
でも村の人達は大きな歓声をあげて涙を流していた。最初は悲しんでいるのだと思っていた。そう

思っていた。

彼等が流していたのは嬉し涙だった。

その瞬間近くにいた友人、ましてや家族までもが私の恐怖の対象となった。その男の子が生きているのか死んでしまったのかは今でもわからない。

｢Aちゃーんもうすぐ夕飯よー
今日は貴方が好きな手巻き寿司よー」

『はーい』

私は手巻き寿司が何よりも好きだった。大好きな家族と一緒に自分の好きな組み合わせの手巻き寿司を作り、家族の好みまでもを知ることが出来るから。

でも昔は望んだ家族の時間も今となっては地獄の時間だ。

生贄が犬神様に捧げられるまで
















後二日

村には家族の笑い声が響いていた。

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