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169:ギャルと白驟雨 ページ19

暗闇の中に、僕はAを見つけた。

ソファーで蹲るAは、闇に溶けそうなくらい小さくて頼りなくて弱々しかった。

扉を開けて彼女を見つけただけで、僕の心はもう裂けて粉々になりそうだった。
今すぐに動いて、彼女をここまで追い込んだ奴を殴ってやりたかった。

術式なんて要らない。
素手で、衝動と感情の赴くままに殴りつけてやりたい。

苛々する。
果てしなく苛々する。
どうしていつもAなんだよ。
なんで僕じゃないんだよ。



Aの前まで足を運び、僕はしゃがんだ。
僕の目線よりも、Aの方が高い位置にいる。

「A」

呼ぶと、Aはゆっくりと膝から顔を上げた。
酷い顔だ。生気というものがまるで無い。
僕の見えすぎる目に映るのは、乱れた呪力の流れだった。

消耗しきった呪力。
妙な呪霊に憑かれたAの呪力は、普段から読み辛い。
でも、今日ばかりは確かに分かった。
消耗しきった呪力はとてつもなく禍々しい。


Aは僕の顔を見ると、ぎこちなく笑った。

「悟、おかえり」

その言葉に胸の奥が激しく締め付けられた。
違うよ、言いたいこと言えよ。
アンタもっと言うことあるだろ。
なんでそんな顔すんだよ。
叫びたくて仕方なかった。

僕がそんな事言って欲しい顔してるか?
その為に来たわけじゃないぞ。

そんな顔見せなくていいよ。
なんでアンタ、本当に、どうして。


ギリ、と奥歯が鳴る。
熱い息を吐き出すよう、言葉を発した。


「泣けよ」


Aの顔が凍った。


もう全部知ってんだよ。
見えるんだよ。
辛いって顔してくれよ。
助けてって顔しろよ。



「泣けって」


自分だけが辛いみたいな顔しろよ。



「僕しかいないから」



瞬間、Aの顔から一切の感情が剥がれ落ちた。
虚空だけを切り取ったような瞳に、水の膜が貼られ、それは次第に溜まりAの目から零れた。

止まることなく、ボロボロと零れる。

眉を歪めて、下唇を噛み締めて、しゃくりあげ、嗚咽混じりに泣く。
子供のように泣くAを、僕はそっと抱き寄せた。

Aは肩口で泣きながら、僕を痛いほど抱きしめる。


「間に合わなかった、間に合わなかった…ッ」


身を焼き切られるほど苦しかった。
泣いてまで、自分を責めるように言うのが聞いていて本当に辛かった。
僕には、そんな事言うなよなんて責めることが出来ない。

責めた方が救われる心もあるけど、僕にはできない。


僕も、傑の時は間に合えなかったから。

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鼻毛太郎(プロフ) - 華花。さん» コメント有難うございます!これでいいのか...?と悩む時期が続いていた中、温かいコメントを頂けて本当に泣くほど感謝してます;;現在5章目を製作中なので、しばしお待ちを…!今後もギャルと呪術を宜しくお願い致します! (2021年4月21日 11時) (レス) id: 642d1e8526 (このIDを非表示/違反報告)
華花。(プロフ) - いつも緊張して送れませんでしたが初コメント失礼します!もう作者様は言葉選びから構成まで最高すぎます…素敵な作品を生み出してくれてありがとうございます! (2021年4月20日 23時) (レス) id: 2bd2296ed7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鼻毛太郎 | 作成日時:2021年3月1日 0時

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