人間味しかない貴方が好き② / 霊幻新隆 (ページ1)

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※31話から既に数ヶ月が経過｡
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数年の時を経て再会したはいいけれど｡

『あの時の事忘れてます』ってくらい､霊幻さんは何も言わずに私の前を歩いている｡

これが良い事なのか悪い事なのか､私にはわからない｡

霊幻さんのアパートに着いて､いつものように部屋に入る｡

見慣れた殺風景な部屋｡まるでこの人そのものだ｡

必要最低限のものだけ見せておいて､本当はそれ以外の真実もあるのに完璧に隠してしまっている｡

慣れて触れてよく探してあげないと｡

本人でさえ､その存在を忘れているのだから｡

霊幻さんに買ってもらった黒いクッションに背中を預け､テレビをつけた｡
あの人はベランダに出て煙草でも吸っているのだろう。

危ないことに冒頭からここまでふたりとも無言なのだ｡

よく2人きりで無言で居ても気まずくならない相手こそ本当の友達だとか言うけれど､私と霊幻さんは友だちではないしそれ以下でもそれ以上でもない｡

曖昧な表現になるけれど”それ以外の何か”としか言葉に表すことは不可能だ｡

私達は付き合っていない｡

好き｡
最近その言葉を直接霊幻さんに言った覚えがない｡もちろん言われた覚えもない｡

｢はぁ｣

溜息が出てしまうくらい､焦っているし､呆れてもいる｡
霊幻さんにも､自分自身にも｡

ガラガラ､と聞き慣れたドアの音｡

｢…霊幻さん｣
｢ん？｣

｢今日､どっか食べに行こうよ｡夜｣
｢何か食いたいもんでもあんのか？｣
｢なんでもいい｡安いのがいいな｣
｢なんでそこにこだわんだよ｣

そう言って申し訳なさそうに笑うこの人が､死ぬ程愛おしい｡

｢ラーメンは？｣
｢いいのか？そんなんで｡イタリアンとか｣
｢昨日友達と行ったから｣
｢そうかよ｣
｢…へへ｣

幸せじゃない､と言えば嘘になるけれど｡
幸せ､だとも言えない現状｡

私が求めているのはイタリアンなんかじゃないよ｡

どうしようもなく好きな､貴方だからね｡