リ ボ ン の 檻 6 【真名部陣一郎】

△リボンが246こ▽ ページ4

「カゼじゃない。カゼなんかじゃないもん。ただ熱いだけだもん。カゼじゃないもん」

「A…さん？」



震えている事に真名部が気付いた直後
まるで自分に言い聞かせるかのようにAは口早に言葉を続けた。

それも繰り返し風邪である事を否定するかのような。
必死に隠そうとしているかのような。


何処か怯えている様子の彼女。
今まで彼女と過ごした経験から、真名部は何となくその理由が想像出来た。

だからまずは彼女を安心させようと、真名部は震える彼女の手にそっと手を伸ばす。
ちょん、と指先が当たっただけでAの肩はﾋﾞｸﾘと跳ね上がった。

怖がらせないよう、まずは指で手の甲を撫で
それからゆっくり彼女の手を取って、包むように両手で握る。

するとAの手の震えがだんだんと収まり
Aは目を丸く見張って真名部を見遣る。
そんな彼女に微笑み掛けてから、真名部は再び口を開いた。



「……風邪を引いたら、母親に殴られたりするんですか？」

「……ううん。閉じ込められるの」

「閉じ込められる…？」

「上の階のクローゼットの中。鍵が締められるから。
『風邪が治るまでそこにいなさい』って……閉じ込められるの」



やはり風邪を引く事すらも彼女の母親は許さないらしかった。
Aは目を伏せ、今にも泣きそうな顔をして俯くと
ぎゅっと真名部の手を握り返した。


その話を聞いて真名部は先程の彼女の怯えっぷりに納得した。

Aは元々極度の寂しがり屋で、1人で留守番もままならない。
そんな彼女が1人クローゼットに閉じ込められるだなんて、耐えられるワケがない。

寧ろ、彼女がここまで寂しがり屋になった元凶ではないかとさえ思えて来る。


知らなかったとはいえ、彼女を怖がらせてしまった事が申し訳なくなり、真名部は「すみません」と謝ると
Aは首を横に振ってから、弱々しくも無邪気に笑った。



「まなべはママと違って、ママみたいなことしないもん。なのに怖がっちゃってごめんなさい」

「Aさんは謝らなくていいんですよ。
…それで、改めて問いますが……具合、悪くありませんか？」

「……ちょっと寒くて、のど痛いかも」



Aは言いながら両肩を擦る。
もしかしたら今日起きてからずっとそうだったのだろうか。

どちらにしろ、まだそこまで酷くはなっていないらしい。
今の内に対処すれば、そう重くはならないかもしれない。


そう考えた真名部は聞いてすぐ彼女をソファに寝かせ
てやった。

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