38話 ページ38
翌日早朝。
「じゃあ、いってきます!A、ちゃんと休んでるんだぞ?」
俺は鍛錬に出かけていく炭治郎を軽く手を振り見送った。
暫く緊張状態が続き、飯もろくに取っていなかった体は満身創痍。
体のだるさと足のふらつきが続いている。
「A、髪を整えてやろう、こちらに来て座りなさい」
炭治郎が出て行ってすぐに、鱗滝さんに手招きされて彼の前に正座をした。
選別中に、斬り落としたままになっていた髪を、昨晩炭治郎が整えてくれようとしていたのだが、風呂に入った後からの記憶がなく、どうやら湯船につかりながら眠ってしまったようで、気付いた時には炭治郎と同じ布団で眠っていた。
今さっきも整えてくれようとしていたのだが、鱗滝さんに「早く鍛錬に行け」と言われて名残惜しそうな顔をしながら家をでていった。
さくりとハサミが耳元付近の髪を切る。
さくり、さくり、さくり…
丁度音が、後頭部にまで差し掛かったころ、鱗滝さんが話しかけてきた。
「A、帰ってきたばかりで疲れているだろうが、大事な話をする」
さくり…
「三日後の早朝、何事もなければ、ここに冨岡義勇という男が訪ねてくる。その者と共にこの山を下りろ」
「下りる?」
「そうだ、冨岡義勇は鬼殺隊の現水柱、お前はその継子となる。文はすでに送った」
さくり…
みずばしらにつぐこ?何の話だろう。
「下山の後、屋敷へと行くことだろう、そこで稽古を受けてもらう。詳しいことは後に義勇から聞くと良い」
さくりさくりと髪を切る音は途切れない。
「炭治郎と禰豆子は…?」
「儂が責任をもって見ている、心配するな」
山を下りる目的は、別の人から鍛錬を受けるというものだと、ようやく理解はできたが、七日間、炭治郎と離れていただけでとても不安な気持ちになったというのに、一体、どれほどの期間この家から離れなければならないのだろう。
鎹鴉は伝令を持ってくる。
伝令が来れば俺もこの家を後にしなければならないと分かっていたが、それ以外でこの山を下りることになるだなんて考えてもみなかった。
俺は鱗滝さんの言葉にうなずくことなく、ただ床をじっと見つめた。
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作者名:矢月 | 作成日時:2020年2月15日 13時