同居人はユーレイです。【青】

ghost.41 ページ41

「気付いたら、病院のベッドの上に居た。

　初めてベッドで寝てる自分を見たときはびっくりしたなぁ。

　『これが幽体離脱か〜』って……。


　なんか、奇跡的に助かったんだよね。

　飛び降りる瞬間を偶然見てた人が居たみたいで。


　それからはずっと、霊体生活。

　この家の中と、病室以外の場所には行けないの。


　この前ころんくんに『お昼寝してた』って言ったとき、

　実は病室に居たの。嘘ついててごめんね。


　この半年間、ひたすら成仏する方法を模索してた。

　自分の身体にはどうしても戻りたくなくて。

　だからころんくんにお手伝いを頼んだの。


　こんな、死ぬためのお手伝いみたいなこと、

　正直に話して頼むのは申し訳なかったから、

　ずっと『死んでる』って嘘吐いてた…。


　本当に、ごめんなさい。」



「A…」



「申し訳ないって、心の底から思ってる。

　でも、でもね…。
　
　生きるのが、怖いんだよ……。


　ピアノが弾けない私なんて、何の価値も無い。

　みんなみんな、"ピアノが上手な私"が好きだから。


　私、今までずっと、成仏したくて仕方なかった。

　目を覚ましたら、また"ピアノが弾けない私"に戻っちゃう。

　
　だからずっと、嘘吐いて隠してた。

　……ころんくん、ごめん、ごめんね…っ！」




Aは泣いていた。

ボロボロと零れていく涙を拭いたくて思わず手を伸ばしたが、触れられない。


当たり前だ。だってAは幽霊なんだから。

涙を拭うことも、手を握って落ち着かせることも、「大丈夫だよ」って抱きしめることも出来ない。

僕がAにしてやれることなんて何も無い。




Aが抱えていたものは、僕の想像を遙かに超えるほど大きなもので。



僕はピアノが弾けない。

押し潰されそうなほどのプレッシャーを抱えて生きてきたことも、周囲の人間から注目され、期待されて生きてきたこともない。


Aの痛みを、分かってあげられない。


僕じゃ、Aの力にはなれない…。




僕は何も言えなくて、ただ黙るしかなかった。

何か言いたくても、言葉が見つからない。

「そんなことない」とか「命を粗末にしないで」とか、簡単にそんな言葉を吐ける状況じゃない。


追い詰められて、苦しくて、もうどうしようもなくなったAにとっての唯一の逃げ道が "死" だった。


そんな唯一の逃げ道を潰すようなこと、

僕には、出来ない……。
　

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