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吉沢side
『母子手帳と一緒に施設の入口に置かれてたんだって。手帳、親の名前がぐちゃぐちゃに消されてて、でも私のことは本当に細かく書かれてるからさ、今も別に、捨てられたとかは思わないんだよね』
笑って話すAに、悲愴感の欠けらも無いのがすごいと思った。
共感のしようがない、そんな過去を、この華奢な体に詰め込んできたのかと思うと、どうしようもなく抱きしめたくなった。
『でもこれ初めて話したなぁ』
「俺だから?」
『かもね〜』
「これでテレビとかで話されたら俺泣いちゃう」
『しないよこんな暗い話!笑
亮じゃなかったら絶対しんみりする』
また笑って、日本酒をなみなみ注いだグラスを口元に運ぶA。
俺もまた、どこか優越感に浸りながら、同じようにお酒を飲んだ。
阿比さんからは、ここまで詳しくは聞いてなくて。
阿比「あのこあれでも、相当ハードな人生送っててね。亮ちゃん助けてあげて。心の拠り所になるはずの家族に、捨てられたのに、全然弱いとこ見せないのよ。
わたしだって自分の子みたいに大事にしてるけど……ね?」
あの時の阿比さんは、まさに、親のような顔をしてた。
今度会ったら、Aも同じように、阿比さんを愛してたよ、って教えてあげよう。
「Aのこの話、阿比さんが聞いたら泣いちゃうかもね」
『阿比ちゃんが?なんで?』
「Aのこと、娘みたいに思ってるって言ってたから」
『うわ、それ私も泣いちゃうな〜!』
初めてそこで涙ぐんだAに、おいで、と腕を広げたら、控えめに俺の肩に顔を埋めた。
「強がりだなぁ」
『弱いよりずっといい』
「そっか」
少しして、寝息が聞こえた。
Aをベッドまで運ぶと、涙の跡が暗闇でキラキラ光っていた。
「俺の前では、弱くてもいいんだよ」
お風呂を明日の朝に沸くように予約して、さっき自分で用意したベッドはスルーして、Aの眠る隣に滑り込んだ。
「おやすみ」
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作者名:イチコ | 作成日時:2019年6月7日 19時