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「＿＿＿＿＿＿ようやく、旅立ちましたか」
賑やかなニューリィシティに、ぽつんと巣食う“影”。
日向にいるのに、まるで路地裏の如き黒いコートに身を包んだ男は、一番道路へと続く道を、ただ眺めていた。
(……まるで、結晶の原石のようだな)
眩しい。
少年少女たちの、真っ直ぐすぎる姿は、男にとって、目の奥がチカチカするほど、刺激が強すぎる。曇り一つ知らない、若いチカラ。あまり近くに居続けては、それこそ毒というもの。
男は、そっと目を閉じた。
両目を、紫色の布で、眼帯のように覆い隠している。
しかしなんだか、先ほどの光景は、日光よりも鋭く己の目を刺してくるような、仮面すら貫通してしまいそうな……そんな危険を感じたからだ。
(……それにしても、何だったか……)
男は、緩慢な動作で、赤煉瓦の街並みを後にする。
(“チャンピオンを探す”……そのために、旅に出る、と？)
先ほどのやりとりを反芻する。
盗み聞きと言ってしまえば、それまでなのだが、情報収集と言えば聞こえは良い。
男は、思わず、自分の口元を手で覆った。
「……っ、く……、ふふっ……」
「あはは、っ……！！！
おかしな子供たちですね、本当に……！」
滑稽で、ならなかった。
自信満々に言い放った、あの青髪の少年も。
そんな妄言に浮かされて、意気揚々と旅立っていった、あの白髪と金髪の子供たちも。
そして、少年たちがひた信じている“チャンピオン”という存在が。
男は、声を押し殺して、笑っていた。
その小さな狂気は、雑踏と共に、ふわりと柔らかい空気に乗って、跡形もなく霧散してしまった。頬を撫でる風……エイノシティから運ばれてくる、僅かに塩の香りが混じったそれが、男の真っ白な髪をかき上げる。
「俺が居る限り、ワイズ団がある限り。“チャンピオンさん”なんて、現れっこない。
＿＿＿＿＿＿もうしばらく、表舞台から消えていてもらったほうが、都合が良いですから。」
風に紛れて、飛ばされてしまった新聞がふわりと男の足元を掠める。
何の躊躇もなく、男はそれを、くしゃりと踏みつけた。
黒いショートブーツが、雑踏に紛れてその足音を殺していく。
ニヤリと口角をあげ、見えた犬歯も、誰も気にしない。
ただ、ただ、人の中に溶けていく。
「……全ては、俺たちの＿＿＿＿＿＿＿いや、俺の、掌の上……ってね」
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To be continued!!!→←幕間:白昼夢からこんばんは。
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作者名：じぇっと | 作者ホームページ：明日のストラナでお会いしましょう。
作成日時：2024年12月24日 23時
