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……シズクモが、空を飛び。
チコリータがそれを追う。
指示するわざは、特別難しいものでも、高威力でもない。
けれど、ただただ、見るものを魅了するバトルが、そこにあった。
……たった二人を除いて。
「ハヤセ……」
不安そうに、セイは横に目をやる。隣の少年……ハヤセは、バトルコートから目を離さず、メガネをあげる。
「ああ、お前もわかっているだろうけど。……僕も同じ考えだ」
いつまでも見ていたい。そんな、いわゆる“良いバトル”なのだろう。
けれど、二人は気がついていた。誰よりもノインの努力を近くで見てきた、セイとハヤセだから、理解せざるを得なかった。
_______おそらく、双方限界が近い。
ニオは、慣れない対人戦であるのに加え、序盤は極度の緊張に苛まれていた。今は興奮して自覚していないが、いつかは集中力が切れ、追撃すらできなくなるだろう。精神的なダメージが大きすぎる。
対するノインも、並々ならぬ機転でつるのムチをかわし続けているが、こちらもそろそろガタがくる。攻勢に転じられなければジリ貧だ。指示を出す側の判断も鈍ってくる。つまり_______
_______次の一撃で、勝負が決まる。
蔦を飛び回るために吐いていた糸を、シズクモがしまい、大きく飛び出した。
指示なんていらない。思えば、伝わるのだから。
「……!ノイン……」
「いよいよ決める気か……!」
もはや、“試す側”とか、先輩の意地とか、どうでもいい。
ただ、勝ちたい。
その欲求に正直に、ノインは言葉に思いをのせる。
「_______《むしくい》!」
チコリータめがけて自由落下。
後を追うように、虫籠が狭まるように、つるのムチが追尾する。
交差し、絡まるツタは、何重にも覆い重なり、シズクモを押し潰さんと迫っていく。
……けれど。
(いける……!)
ノインは確信していた。
必ずシズクモなら、ツタに捕まる前に、一撃を入れてくれる。それができる自信があった。
(どうしよう、このままじゃ……っ!)
ニオも、それはまた同じ。
このままなら負ける。けれど、打開するための策なんて、到底思いつきそうに無い。
(どうしよう、どうしよう、どうすれば……ッ……!)
刻々と、決着の瞬間は迫り来る。
苦し紛れに、口を開く_______
「_______っ、《_____」
コンマ1秒後。
バトルコートは、水飛沫と煙幕に包まれた。

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作者名:じぇっと | 作者ホームページ:明日のストラナでお会いしましょう。
作成日時:2024年12月24日 23時