開幕:……旅に出よう。 ページ12
＿＿＿＿＿＿＿画面の向こうのあなたに、どうしようもなく、焦がれていた。
ライトに照らされ、舞うようにバトルコートを飛び回る。
返す一撃は、まるで炎でも纏っていたかのように、鮮烈で。
テレビの画面に自分が吸い込まれて、自分がまるで“そこ”にいるように錯覚できる時間が好きだった。
「私なら、この場面はこうする」
「私なら、ここで交代しよう」
「私なら」
「私なら」
「私なら＿＿＿＿＿＿」
いくつも積み重なっていくのは、もしもの空想ばかり。そんな自分勝手な幻想すら、鮮やかに彩ってくれる彼に、どうしようもなく、憧れていた。
「いつか……」
「いつか、いつの日か。いや＿＿＿＿＿＿絶対……」
憧れはいずれ、私の中で、確かな目標に変わっていく。
花が散り、緑が落ち、また雪が溶けて、花がつく。
季節を一つ繰り返しても、私の中で、それは確かな強度を持ち続けていた。
それは、画面の向こうの彼も同じ。
色褪せることのない“黒”……。
冷たく、鋭く、柔軟で、そしてなによりも熱くあり続けた、憧れ。
「旅に、出てみたいな……そして、いつか……」
……あなたに、手を届かせてみたい。
夢を、現実に。
そのために、できる努力は、するだけしてきた。
＿＿＿＿＿体があまり強いとはいえなかった。
そんなんじゃ、旅なんてままならない。
ある日から、近くの道路をがむしゃらに走るようになった。1年も経てば、周りの子と比べれば、ほんの少しだけバテづらくなった。
バトルの戦術も、たくさん勉強した。
いろんな人の勝負を見て、いろんな人の本を読んで、難しかったタイプ相性だって、今ではもう完璧に理解できる。
ここまでやった。
ここまでやっても、まだスタートラインにすら立てていない。
私はこれから、一番高い、最初の壁を乗り越えなくちゃいけないんだ。
いつもは賑やかな笑い声が響くリビングが、しんと静かだ。“あの人”が映っていたテレビも、今は電源が落とされてしまって黙っている。
「ママ、パパ……」
いつも優しいママ。大体おどけているパパ。その二人が、今、真剣な顔で、私の目の前にいる。
言わなきゃ。
言うんだ＿＿＿＿＿＿言って、現実にするんだ。
手が震える。
心臓がうるさい。
「あ、のね……」
「前から、話してたけど、私、もう10歳になったの」
震える喉で、空気を吸った。
「私ね、＿＿＿＿＿＿」
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作者名：じぇっと | 作者ホームページ：明日のストラナでお会いしましょう。
作成日時：2024年12月24日 23時
