11 ページ11
「んー…、これ、足りるかな…いや、買っておいたほうがいいな…」
部活が終わって、部員がいなくなった部室。
私はこっそり、備品整理のために残っていた。
本当は明日やればいいんだけど、明日は、真波くんと黒田くんのインハイメンバーを決める
レースだ。
今のうちに、やっておきたい。
「あれ、Aさん」
「…え、真波くん？」
がちゃりと音を立てて開いた扉から、真波くんが汗だくで入ってくる。
今は20時。こんな遅い時間だからもう皆帰ったと思ってたんだけど。
「山、登ってたの？」
「そうだよ。はぁ〜、暑」
「早く拭かないと風邪ひくよ、もう」
タオルを手に取り、真波くんの顔に伝う汗を拭う。
目を閉じて、されるがままになる真波くん。
ジャージまでびしょびしょだ。
「頑張ってるね」
「ん？んにゃ、頑張ってないですよ。山昇るの楽しいし、自分が頑張ってるって感覚ないなぁ」
「ふふ、天性のクライマーって感じ」
「俺は根っからのクライマーですねぇ。平坦とか苦手だし」
からからと笑う彼は、自転車に乗るのが本当に楽しそうだ。
私と言えば、さっきの福富さんのことを思い出し 汗を拭う手を止める。
「…明日、だね」
「ん？」
「黒田くんとの、レース」
「そうですね〜。楽しみだ！」
「緊張、しないの？」
「楽しみのほうが多いよ。誰かと山登って、競争して…最っ高にアガる！」
「そう」
すごいなぁ、本当に楽しみなんだ。
思わず口角が上がってしまう。
「あ、でも、Aさん」
汗を拭う手を止められ、手を握られる。
そのままお互いの指が絡み、真波くんの熱が私の指先から伝わってくる。
思わず、どくん、と心臓が跳ねた。
「俺を、応援して」
「…え、」
「明日のレース。黒田さんじゃなくて、俺を応援して」
「真波、くん」
「お願い」
なんで、そんな、真剣な目するの。
じわじわと顔が熱くなる。
どっちかを応援しろだなんて難しい。
どっちも応援したい。そう考えてた。
けど、私、今。
真波くんを応援したいって、考えてる。
「…うん。応援してる」
まるで口から零れてしまったかのように、言葉が漏れる。
私の言葉を聞いた真波くんは、目を大きく開けたと思えば、すぐに細めて
へにゃりと笑う。
「ありがとう、Aさん！すっげー嬉しい！」
そんな彼の笑顔を見て、どこか嬉しくなる自分がいたことは知らないふり。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 78人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
桃(プロフ) - さゆりん★さん» ご愛読と応援ありがとうございます！展開が気になる、と仰って頂けると、どう書こうかなぁ、と先を書くのが楽しみになります。荒北さん素敵ですよね、今度荒北さんの小説書こうかなぁ…。キャラの性格と言葉は気を使っているので着目して頂けたのが嬉しいです(^^♪ (2019年6月11日 21時) (
レス) id: b8ab658ad3 (このIDを非表示/違反報告)
さゆりん★(プロフ) - めっちゃくちゃ面白いです！！いつの間にか次ボタン押していて、一気に読んでました… 展開がものすごく気になります！！真波くんは可愛いけど、私はちょい荒北押しかも… キャラの性格も言い方ぴったりすぎて、普通に声優さんの声が聞こえます (笑) 応援しています！！ (2019年6月11日 13時) (レス) id: 269cb7a691 (このIDを非表示/違反報告)
桃(プロフ) - 陽愛さん» 初めまして、ご愛読と応援ありがとうございます(#^^#)評価ももちろん嬉しいですが、こうしてコメントを頂けることが何よりも嬉しいです！陽愛様のコメントが私の創作意欲を掻き立ててくださいます(*'▽')これからもよろしくお願いします！ (2019年6月5日 8時) (レス) id: b8ab658ad3 (このIDを非表示/違反報告)
陽愛 - 初めまして！いつも楽しみに読んでいます(^^)高評価が何度も押せればいいのですが(>_<)これからも応援しています！ (2019年6月4日 22時) (レス) id: 99136d3c89 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：桃 | 作成日時：2019年5月12日 11時
