夜空の星になれたなら【男主】 (ページ2)

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『辞めようと……思います』

静寂に包まれた部屋で、静かに伝えた言葉に
社長は表情ひとつ動かさなかった
下げた頭をあげて目線をまじわせると、まるで全てをわかっていたかのような目に、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる

『…………僕をここまで育ててくれたのに、ごめんなさい』

「…………分かってる。謝るな。」

社長は席を立ち僕のそばへと歩みを進める
撫でられた肩は温かい手でじんわりと熱を持つ

「……家族のもとへ、帰ってやりたいんだろ」

『……はは、あなたには何も隠せないんですね』

「どれだけお前を見てきたと思ってる。俺に隠し事なんてこれまでも、これからもできるとは思うな」

語気は強いが、僕を心から思ってくれている社長の言葉が握りしめる拳に力を籠らせる

指できらりと輝く指輪が色褪せたように僕を見つめている

『………………去年父を亡くしてから、日本で1人で暮らす母が…………心配でたまらないんです』

「…元気なのか？」

『はい。僕の不健康さを怒るぐらいにはㅎㅎㅎ』

『 ………ただ……』

『…ただでさえ寂しがりな母が、年々小さくなっていく背中で全てを背負い込んで、弱さを見せずに1人きりで頑張ってるのに』

瞬きをすれば、葬儀で見た母の横顔が浮かび上がる
必死に遺影を握り締め、涙を堪える母の顔が僕の心からは離れないのだ

『僕だけが、いつ叶うか分からない夢を追い続けるのは辛いんです』

涙を見せずに笑ってみせる
僕には叶えられない夢よりも、たった1人の家族が大切だったから

そんな僕の頭を社長はぶっきらぼうに撫でた

「たった20歳そこらの子供が何言ってんだ……。親はいつだって子供のために頑張れるもんなんだよ。お前のせいで辛い思いなんかしてるもんか……」

『………』

あぁ、大人はいつだってそうだ
自分たちが1番辛い時だって、僕たちに暗闇を見せないように必死に取り繕う

それが嬉しくも、歯痒くもある
年齢は大人に近づいてるのに、まだまだ子供の僕にはどうすることもできないことがあることを痛感するから

「………A」

『はい』

「最後に一つだけチャンスをくれないか？」

『え？』

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