九十一話 ページ16
エリザベスの父が大声をあげて指をさしたのはAの持っている本だった。
勿論、Aは困惑する。
彼女の持っていた本は、とても大人が読むような本ではなかった。
｢それはわしの本だえ！返すえ！｣
『こ、これは私の本です』
｢人のものを盗んで自分のものだと？ふざけるなえ！｣
エリザベスの父がAから乱暴に本を奪おうとする。
本能的に動いたエリザベスは父の体に飛びついて反抗した。
｢お父上様！それはAが家から持ってきたと言っていた本でございます！先程、本の内容も見ましたが到底お父上様が読まれるような＿＿＿｣
｢飛びつくなえ！！｣
足元を掴んでいたエリザベスは、父の蹴りで体が宙に舞い、地面に放り出される。
余程頭に来たのか、エリザベスの父は横たわっているエリザベスを足で蹴り始めた。
鈍い音が部屋の中で籠ったように聞こえる。
エリザベスは意識はうっすらあるものの、身体の所々に外傷が見られる。
直ぐに手当を受けなければ跡が残ってしまいそうなほどだ。
気が済んだのか、エリザベスの父は部屋から出ようとすると、辺りが炎に包まれてしまっていた。
突然の炎に吃驚するエリザベスの父。
ふと後ろを見てみると、そこには瞳が深紅色の白髪の少女がそこに立っていた。
また、表情は“無”に等しかった。
その少女の正体は＿＿＿＿Aだった
後に部屋は紅い濁った湖となった。
そして彼女は、その部屋で声を殺して涙を流した。
彼女は、信頼できる唯一の人物を、自らの手で殺めてしまったのだ。
エリザベスは暴走するAを止めようと必死に食らいついたがその時のAはAではない。
エリザベスは、致命傷となる攻撃を受けてしまった。
冷たくなった彼女を抱き寄せ、喪失感に駆られる。
護衛がこの部屋に来る前にAは、この場から離れることにした。
Aは、エリザベスが地面に倒れ込んだ後から部屋が紅い濁った湖となっていた、その間の記憶は一切なかった。
これが、所謂ピエピエの実の能力の暴走であった。
瞳が深紅色となる時、当事者は記憶が完全になくなり、無差別に人を殺めてしまう。
必死に逃げて、逃げて、やっと着いた下界。
大きな木が生い茂る森で、Aは座り込み意識を手放した。
その日は、雪が静かに降りていた。そして彼女を包み込むかのように。
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作者名：つんてん | 作成日時：2022年11月3日 19時
