【短編集】人よ、神を繋ぎとめよう３【派生作品】 (ページ9)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:1,772 hit

69：学生最後の① ページ9

.

春めく３月、早咲きの桜が咲くそんな時分。
まだ少し肌寒く、けれど澄み渡る心地良い雰囲気に包まれるそんな日。
機関のマスター、千景椿、橘樹の二名は卒業式に参加するため日本へと帰省していた。

ふたりの晴れ姿を見るんだだとか、興味本意で同行しようとする者だとか様々だったようだがどうやら今回の帰省は珍しくもふたりきりのものとなったようで。
無事に卒業式を迎えたその晩、端末に指を滑らせ彼女からの連絡に目を通し樹は愛おし気に目を細めた。

互いに一般的な高校生活は過ごすことは叶わなかったが、これはこれで良い思い出になるんだろうな、なんて窓より舞い込む風を受け思いを馳せるとある１つの提案を持ちかけた。

"椿、今から電話してもいい？"

それは実のところ、以前から計画していたこと。
2/14に受けたお返しに自分ができることはなにか考え打ち出したこたえであったわけだが。

二つ返事で了承を得られたところで３コール目を待たずして、電話口からは可愛らしい声が響いた。

『もしもし、樹？どうしたの？』

「ちょっと提案があるんだけどさ」

『なになに！』

それは、明日、首都圏にあるテーマパークに行かないかという提案。
以前行きたいと言っていた彼女の言葉を受けてすでに交通手段もチケットも手配済み。
断られてしまえば無論無駄になってしまうわけだが、樹にとってそれは小さな問題だったのだろう。

『行く！行く行く行くー！！そしたら新幹線とらないとだよね！とれるかな？』

「ん。それならもう取ったから大丈夫。それより椿は、ほかにやりたいことあるか？」

問いを投げると先程の明るい声とは打って変わっての少しの沈黙をおく。
なにか言いにくいことがあるのかと相手の返答を静かに待つと、それは可愛らしい願い。
お付き合いを始めた女子高校生ならば一度は思い馳せるだろうことだった。

『制服ででかけたい…なんて、へへ。でも私たち今日で卒業しちゃったし変だよね！
！やっぱなし！』

「別に変じゃなくないか？俺たちって高校生っぽいこと大してできてないし全然ありだと思ったけど」

『……ならやっぱり制服でお揃いコーデしたいっ』

「わかった。あとで明日の時間貼っておく」

『うん！』

会話もそこそこに、最後に告げられたお礼の言葉は返事をする前に通話が切られてしまったため返すことができず。
それもまた照れ隠しだと理解しているからこそ、仕方ないなと呆れたように微笑むのだった。