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夢を見た。ここのところ多い。
最初で最後に愛した女。
今も寝苦しい夜には決まって彼女が現れる。
彼女の手を離したのは紛れもない自分自身で、別れを決意したのも自分自身だった。
あの日はやけに彼女の聞き分けがよく、立つ鳥跡を濁さずと形容するに実に相応しい立ち振る舞いをもって終わりを告げた。
終わりも突然なら始まりも突然だった。
ウェンディ・ウィスタリアとの出会いはそれほどに男の心の奥深くに生きづく。
これではまるで、終わらせたくなかったようではないか。
愛する弟の生存を確認した今、自分も人並みの幸せを願っても良いのだろうか。
「馬鹿か。もう終わったのだ。終わったことをぐちぐちと。」
別れた今でも脳裏に焼き付いて離れない。
「これから忙しくなるというのにこれでは」
彼女の笑顔が。
「……まさか、ここまでだったとはな。はっ、聞いて呆れるとはこのことだ」
彼女の声が。
鮮明に、色づいて離れないのだ。
「彼奴らを見て影響でも受けたか」
"忘れることは難しいです"
そう彼の中に残るかつて獣のように扱った少女の声が響く。
時には王族の公開恋文を書き、
時には有名な劇作家の脚本を代筆し、
そして、"あいしてる"を教えてくれた愛する男と幸せを手にいれた自動手記人形。
「これでは立場が逆転したようだな」
そうどこか諦めたような自嘲めいた笑みをこぼすと、自身の所属である海軍の軍服へと袖を通す。
「ブーゲンビリア大佐!失礼致します…!」
「嗚呼。入れ。」
そして今日もこうして、男は自身の執務を淡々とこなす。
ほんの少しの胸のつかえと、懐古の念と共に。
彼の憂いが晴れることはない。
それほどに男は、大切なものを失ったのだ。
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湊(プロフ) - 華蓮さん» 初めまして。ご愛読頂きありがとうございます。こちらこそ素敵なお言葉をいただいてしまい頭が上がりません。サイドストーリーもぼちぼちあげようかと考えておりますので暖かく見守っていただけましたら幸いです。コメントいただきありがとうございました! (2020年10月13日 12時) (レス) id: 83bbd53189 (このIDを非表示/違反報告)
華蓮(プロフ) - 初めまして。連載お疲れ様でした。毎回、更新を首を長くして待っていました。もし、サイドストーリーをお書きになるのでしたら、楽しみにしています。本当に素敵で、大好きな物語でした。ありがとうございました。 (2020年10月12日 21時) (レス) id: d2c438ab67 (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - kさん» 初めまして。こちらこそ本当に本当にありがとうございます。こちらこそ本当に嬉しくて言葉ではいい表せないくらいに幸せだと感じています。もう時効だと思うんです。だからやっぱり彼にも幸せになってもらいたいなって。ありがとうございます。 (2020年10月11日 10時) (レス) id: 83bbd53189 (このIDを非表示/違反報告)
k - 本当にありがとうございます…どうしても読みたかったディートフリートの話を読ませていただけることが嬉しくて溜まりません。綺麗で素敵な言葉の綴り方が本当に大好きです。この場では感情が収まりきりません。本当に大好きです。更新心から楽しみにしております。 (2020年10月11日 9時) (レス) id: 5205b065eb (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - Rioさん» はじめまして。素敵なご感想ありがとうございます。とても嬉しいです。完全なる趣味小説でして誰にも見向きもされないかもなと筆をとったので本当に心強いです。ディートフリートは誤解されがちですから。少しでも彼を救えたらという思いで頑張らせていただきますね。 (2020年10月10日 8時) (レス) id: ab18fde111 (このIDを非表示/違反報告)
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