【あるカルデアの日常】あるマスターの日常【派生作品】

□48話　視点:橘 樹 ページ49

『ちょっと見せてみ』
『別にいいけど、わからないと思うよ』


資料を男に渡して顔をみたときだ。

驚いたのだろうな。男はあのとき助けてくれた自称"切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)"だったのだよ。


『貴方はあのときの…！』

ノアは心躍らせたらしい。


『あの時の子か…偶然、いや必然なのかな』
『時計塔で会えるなんて思わなかった。何科なの？』

『はは、俺は"伝承科"。異端児が集まるので有名なね』


くすっと笑い、資料を熟読すれば「結構難しいことをやってるんだな…」と呟く。


『うん、ロードの課題はいつだって難題なんだ。それが楽しいんだけどさ』
『確かに"彼"が出すものなら…ってそうじゃなかったよね。僕は詳細はわからないけどこの内容なら…うん、この本を読むとわかるんじゃないかな』

さらさらと資料の隅に書籍の名前を書かれれば、見覚えのない名前に目を丸くしたと。
それもそうだ、天文学に関する本ならばノアは読破していると自負している。

読んでいた自身の本を手に立ち上がる彼の手を思わず握れば驚かれたみたいだが、今はそれどころじゃない。


『待って。この本は知らない…僕は時計塔にある天文学の本をすべて読んだはず。これは一体』

そんなノアを見れば、「ああー」と不味いことを話したのか、うっかりだったのか。
歯切れの悪い男だったが、ノアはかわいいからな。断れなかったのだろう。

屈み視線を合わせればこう囁いたそうだ。


『その本は天文科ロードのお気に入りの専門書。だから、彼の机にこっそりと収納されているんだ』
『だからか…でも、なぜそれを貴方が！』

だが男は答えることなく、ノアの頭を撫でれば微笑み、その場を立ち去ったのだ。



「とまあ、そんなこともあってノアは彼のファンだということだ。私もその場に居合わせてな、遠くから見守っていたのだが、その話しをするノアといったら珍しくはしゃいでいてな。かわいいのだよ」
「…なるほど」
「できれば、礼をと思ったのだがし損ねてしまったな」


これは俺は真実を話すべきなのか？
天文科のロードといったら、確か麟子の兄貴のことだよな…下手したら、麟子の兄貴に迷惑をかけてる可能性が。

やばい、頭痛くなってきた。



その本、絶対在り処教えちゃだめなやつじゃん！！


「非常に申し上げにくいんですが…」
「ん？」
「いっ君？」


「俺、その男の人、たぶん知ってます…はい…」

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