cicatrice (ページ4)

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岩本と佐久間とが暴れまわっているちょうどそのころ３つ目のフロアは、床は水浸しでその上に何人かの異国人が血を流しながら倒れているというなかなか地獄絵図のような状態だった。

その部屋のちょうど真ん中あたりに横たわる男と、ほぼ無傷で冷静にその男の傷を確かめる男とがいた。

渡辺翔太と宮舘涼太である。

このフロアの床の水は渡辺が能力を使用したためにできたもので、今回もまた彼は自分のリミット限界まで能力をつかったらしい。

『また』だ。

というのも、彼はいつ何時でも幼馴染でありよき理解者の宮館とともに行動しているからというのがその原因なのだが。宮館の能力は治癒だ。自分には使えないのが玉に瑕だが、相手が息さえしていれば彼はその相手の傷を治すことができる。だから渡辺はどれだけ自分が怪我をしようと宮館をできる限りかばいながら能力を使い戦い続け、その度致命傷に近い傷を負ってしまう。

今回は相手がよかったのかまだましだったが例にもよって宮館の分まで傷を負っていた。

宮館「…翔太」

渡辺「……」

宮館のその短い言葉のトーンで渡辺は彼の感情を読み取れた。真剣で、自分のことを心配しているようなそれにほんの少し申し訳なくなる。

宮館「治すよ」

渡辺「…ん」

彼の右手が渡辺の傷口を優しく撫でるとみるみるうちにその肌がもとの美しさを取り戻した。その光景は一種の魔法のようである。ほんの数分で渡辺の体の傷は見た限りすべてなくなっていた。

宮館「他に傷は？少しでも痛むところがあったら早く言うんだよ。」

渡辺「もう平気。ありがと」

宮館「どういたしまして」

そっけない会話を交わしながら宮館は渡辺を手を引いて立ち上がらせ、そのまま阿部に次の指示を促した。2つ目の部屋から凄まじいほどの断末魔の叫びが聞こえてきたのでそちらの…というかおもに佐久間の心配もしているのだろう。声がほんの少し不安げだった。

阿部「多分もう一つ上の階でunが敵の長とドンパチしてるから援護お願いできる？cinqはあとで治すのもお願いしたいから体力温存といて。」

宮館/渡辺「了解」

阿部「でもまあ今回もほとんどunがやるだろうから。」

あんまり気張らなくていいはず。と言い残してイヤモニからの阿部の指示は途切れた。岩本と佐久間の指示に回ったのだろう。

宮館と渡辺はゆっくりと最上階へ続く階段を上った。

＿＿＿＿
・宮館涼太
異能力：能力施行相手の外傷の治癒

・渡辺翔太
異能力：両手からの水放射