アトリエに残された桜 (ページ36)

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再挑戦を重ねて12回目。もはや、スーパーやコンビニで売っているものを買った方が安く済むが、ひとつでも取ってみたいという気持ちに従い、ようやくその時が来た。

「おっ！お～崩れた！！」

『やったぁ遂にゲットぉ！』

苦闘の末、崩れた山からはきのこ一箱、たけのこ二箱が落ちてきた。

『粘った甲斐があったね』

「本当だね」

あー終わった、みたいな安心感とやらなきゃよかった、みたいな呆れが入り混じった顔をお互いに向け合いながら笑う。もうやらないかもしれない。

「あーもう十分だなぁ。取れたし…でも、もう一個やりたい奴あったんだよね」

後半にそう小さく呟いたのを俺は聞き逃さなかった。

『まだやりたいならやろうよ』

「え？でももう良くない？」

惜しそうに呟いていたクセに「もういい」なんてなんだか気持ち悪い反応だ。俺は勢いに任せて翔くんを誘ってみた。

『やろうよ、もう一回やって今度は一発で取ってやろうよ』

「いや、取れるとも思えないけど…」

まだ渋っている翔くん。ええい、面倒臭い！

「ぅわっ！智くん！？」

翔くんの腕を引っ張って強引に歩き始める。

『どれ？他にやりたかった奴。翔くんは良くても俺はもう一回やりたい』

「智くん…」

ちょっと強引過ぎただろうか。もう後には引けない事をして不安に駆られた。後ろにいる翔くんがどんな表情でどんな瞳をしているのか、気になって仕方ないが振り向くのが怖い。

怒ってないかな…？

闇雲に歩いていると急に翔くんが足を止め、ぐん、と後ろに引っ張られてコケそうになった。

『うお！？何？』

反射的に振り向いて見れた顔は俺の不安を易々と掻っ攫って行くような翔くんの上目遣いで、なんだか腑に落ちていないような視線が真っ直ぐに俺の胸を突き抜けた。

「これ…だよ」

『え？』

「やりたかった奴！」

『あ、ぁあ…そっか』

一瞬で夢の国へ連れて行かれていた俺は慌てて帰り、忘れようと翔くんの指定した台へ目を向けるも、あの瞳がしっかりと焼き付いてしまって離れようにも離れられなかった。

チラリ、ともう一度あの瞳を求めるように翔くんの方を見ると目が合い、対抗するような怒りで俺に言った。

「言ったからには絶対、一発で取ってね！！」

ごめん、強い態度を取って。

心で謝りつつ、翔くんの圧に応えるべく俺は100円玉を投下した。