知らない。 ページ46
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｢…俺ら、もうちょいで卒業やろ？｣
目を伏せて、何かに思いを馳せるように口を開く赤木さんが、目の前にいる。
…なんで、皆、卒業、卒業って。いや、そうですよね、卒業するんですよね、赤木さん。
知ってます、知ってるんですよ。
でも。
｢…しません｣
自分でも、何言ってんだって感じだった。
三月。少し肌寒さも残るものの暖かな春の兆しが感じられる季節。
それでも、私は。
ずっと、寒いままだった。
｢卒業なんて、嫌です｣
｢…俺に言うことやないやろ｣
そうですよね。本来なら、校長先生やら教育委員会やらに抗議する内容だ。抗議するほどの度胸もないけど、でも。
｢…卒業、なんて｣
｢…せやから、俺やのうて、信介に言うべきことやないの｣
鼓膜をするりと通り抜けた言葉に、思わず弾かれたように顔を上げる。コントラバスのピッチカートによく似ている感覚。
｢どういうことですか｣
｢俺らが卒業することより、信介が卒業することが嫌なんとちゃうの｣
言い聞かせるようなそれに顔を顰める。違う、ちゃんと赤木さん達が卒業することも寂しくて嫌だ。
…でも。
心のどこかで呻く蟠りが、消えずにしがみついて離れない。
｢…赤木さん達が卒業することだって嫌なことです。それと、一緒で｣
｢ちゃうやろ｣
落ち着いた声のトーン。
まるで全部を分かっていたかのような。全部、仕組んでいたシナリオが上手くいっているかのような余裕そうな顔。
その余裕を崩したいと思うけど、逆に今崩されているのは私の方で。
｢…一緒に頑張ろなって、言ってくれたんですよ、北先輩。
先に居なくなるなんて聞いてません｣
笑ってくれた。私の背中を押してくれた。いつだって、私がどれだけ醜く縋っても、受け止めてくれたのに。
｢…それでも、時間の流れは止められん｣
分かってます、分かってますよ。一歳差、難儀なものだ。三歳差くらいで高校で知り合わなければ、ここまでにはならなかったのに。
…ここまで？
いや、私は何を言ってるの。ここまでって、何のことだ。
｢…私は｣
私は。
私は、もっと。
もっと…？
｢…なあ、雨宮。話しときたいこと、言うたやろ。
聞いてくれるか｣
その声色に、優しさも、厳しさも、何もかもを含ませて。
大きな瞳を、私に向けて。
｢…信介のこと、好きなんやろ｣
私の心に手を入れて、小さく色付いた蕾に、そっと触れた。
息が、できない。
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はるか(プロフ) - この作品のことではないんですがブスの愛で方はもう公開されないんでしょうか？ (2023年2月25日 13時) (
レス) id: aa3e2fb3e0 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - なんかもう…本当に胸が痛かったです…なんでそんなに感動する文章かけるの…？という感じでした。辛いし、気持ちが凄くわかるし、頭がうああってなって(語彙力)気づいたら大号泣していました。本当に素敵なお話をありがとうございました。 (2023年1月18日 22時) (レス) @page50 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 北さんもいい……！ めちゃくちゃにやけました！ (2022年10月23日 0時) (レス) @page50 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
お布団 - 何回ワシをにやけさせんねん！！ (2021年11月28日 10時) (レス) @page50 id: e77bb3532f (このIDを非表示/違反報告)
リンネ(プロフ) - 私、恋愛をした事なくて恋愛小説をどこか違う世界のものとして読んでました。でもこの小説は、感情移入してしまって雨宮の｢自分が嫌い｣という感情が私と重なって泣いてしまいました。あなたの言葉で救われた気がします。ありがとうございます。 (2021年7月5日 2時) (レス) id: 2b6f27f6e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：お水。
| 作成日時：2019年8月16日 11時
