無意識の答え。 ページ34
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「…私、角名くんが好きだった」
「うん」
「…そっか、好きだったんだよ。私、角名くんのことが、『好きだった』んだ」
いつの間にか、方をつけてしまっていた。自分の中では、もう整理がついていた。
…私、もう吹っ切れてんじゃん。角名くんのことを忘れずに、前に進めてるじゃん。
その事実は胸の内を照らして、目尻が熱くなる。角名くんが、嬉しそうに、でもどこか寂しそうに笑うのを見て、初めて見る表情に胸を擽られる。
私の中を、あんなにも満たしていた角名くんへの好意は、既に終止符を打って指揮棒を下ろしていた。
「…改めて謝らせて欲しい。ごめん、俺、雨宮さんの好意を利用した。雨宮さんの辛さを分かった上で、俺がハルを好きでいたいがために利用した。
…ごめん、雨宮さん。それでも、どんなに酷いことをしても、俺と向き合ってくれて、ありがとう」
客席で、審査員が拍手をした。
ただ一人の審査員が、講評を綴るのも忘れて無我夢中に拍手をしている。
制服を着た、センター分けの高校生だった。
泣き笑いのような表情を浮かべ、一人への好意のみを込めた曲を終えた雨宮Aという人間に、拍手を送っている。
それは、祝福か、それとも旅立つものへの労りか。
ただ一つ、確かなのは。
長い長い好意という曲を演奏し続けた、雨宮Aという人物の恋は。
今、確かに終わりを告げたということ。終わりから、一歩、歩み始めたということ。
「…こちらこそだよ、角名くん。我儘なくらいの私の好意を受け止めてくれて、ありがとう。
最後は、私とちゃんと向き合ってくれてたじゃん、角名くん。だからさ、本当に、ありがとう…!」
大好きでした、角名くん。
泣きそうな私を見て、困ったように、でもどこか慈しむようにふにゃりと笑う角名くんを、今日初めて目にした。
長く重い好意が今、私の背中を押して、笑顔で私を見送る。
ありがとう。
角名くんがいたから、角名くんに恋をしたから成長できた。だからこそ、今の私がいる。
「…うん。頑張ってね、雨宮さん。ハルと向き合うんでしょ?これだけは忘れないで。俺は、雨宮さんの背中を押すよ」
(ただ少し、成長してしまった君に、どこか寂しさを感じるけれど、)
「俺はいつまでも、雨宮さんを応援してるよ」
(ただそれだけを、伝えれば良いから。芽生えかけた感情の行き場を無くしても、
――…俺は、今までの分も、雨宮さんの幸せを願う。)
――君の笑顔に、どうか、幸あれ。
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はるか(プロフ) - この作品のことではないんですがブスの愛で方はもう公開されないんでしょうか? (2023年2月25日 13時) (レス) id: aa3e2fb3e0 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - なんかもう…本当に胸が痛かったです…なんでそんなに感動する文章かけるの…?という感じでした。辛いし、気持ちが凄くわかるし、頭がうああってなって(語彙力)気づいたら大号泣していました。本当に素敵なお話をありがとうございました。 (2023年1月18日 22時) (レス) @page50 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 北さんもいい……! めちゃくちゃにやけました! (2022年10月23日 0時) (レス) @page50 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
お布団 - 何回ワシをにやけさせんねん!! (2021年11月28日 10時) (レス) @page50 id: e77bb3532f (このIDを非表示/違反報告)
リンネ(プロフ) - 私、恋愛をした事なくて恋愛小説をどこか違う世界のものとして読んでました。でもこの小説は、感情移入してしまって雨宮の「自分が嫌い」という感情が私と重なって泣いてしまいました。あなたの言葉で救われた気がします。ありがとうございます。 (2021年7月5日 2時) (レス) id: 2b6f27f6e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お水。 | 作成日時:2019年8月16日 11時