野蛮な神様。 ページ14
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いつの間にか、私の足は下駄箱前まで来ていたらしい。
後ろから、また足音が聞こえる。
「…晴山に、侑、か」
先程まで感じていた体温の主。北先輩の声が、ふと後ろから聞こえるのを感じて、どこか気まずさがなくなった。
「…雨宮、鞄、教室の前」
侑が、私の方を見て言う。嗚呼、ヤバい、なんだろう。思わず、至近距離にあったハルの顔に、後ずさりしてしまった。
泣き跡。グシャグシャの髪。濡れた頬。
罪悪感が込み上げる。どうしようもない居心地の悪さがあって、それから逃げようにも、後ずさるしか能のない足は役立たずで。
いつの間にか、私の口からは大量の息が流れ出ていた。ため息にも似ていると思う。
外部の空気が口内を掠り、体内の空気が喉から這い上がって吐き気を促す。
気持ち悪い。
瞬きなんて出来なかった。しようものなら、私は恐らく罪悪感に呑まれていたと思う。
いつの間にか震えていた指先。
嗚呼、まるでアレルギー反応じゃないか。
全身が痒い。外気が気持ち悪い。目の前のハルに、水晶体越しに黒いインクが垂らされるのが分かる。
完全に、ハルを見れなくなってしまった。
侑の顔は分かるんだ。ハッキリと。柔らかくも鋭い視線を、私に浴びせている。
それが何かを咎めているようにしか思えず、被害妄想逞しい気もするが、批難する声がその口から発せられる気がした。
嗚呼、どうしよう。
ハルを見てはいけないと、ハルを認識するなと脳が暴れ回る。脳内に味噌汁が垂らされている。煮立った味噌汁ほど不味いものはないでしょう?
グツグツと煮えくり返る味噌汁が、脳細胞活性化どころか、退化させてしまっている。
豆腐は前頭葉の中で割れて、内部から火傷を促す。なめこがそのヌメリとした感触を生かし、後頭葉に絡みつき機能を失わせる。
唯一残った頭頂葉だけが、みつばのみを被せられ被害が少なかったらしい。
他はもう、ダメだった。味噌と出汁のよく効いた汁は、簡単に、私の脳をショートさせる。空間認識、温度感覚のみが正常に働いている。
…しかし、そんな中でも本能は有能らしかった。
早く立ち去れ、そう告げている。私の心の奥底で、そいつは必死に声を上げ、これ以上傷付きたくなければ立ち去ってしまえ、それがお前のためだ。と怒声を響かせている。
怒らないでよ。
分かっているんだ。立ち去った方が良いことくらい。
レッテルの貼られたハルの顔が、少しずつ、近付く。
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はるか(プロフ) - この作品のことではないんですがブスの愛で方はもう公開されないんでしょうか? (2023年2月25日 13時) (レス) id: aa3e2fb3e0 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - なんかもう…本当に胸が痛かったです…なんでそんなに感動する文章かけるの…?という感じでした。辛いし、気持ちが凄くわかるし、頭がうああってなって(語彙力)気づいたら大号泣していました。本当に素敵なお話をありがとうございました。 (2023年1月18日 22時) (レス) @page50 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 北さんもいい……! めちゃくちゃにやけました! (2022年10月23日 0時) (レス) @page50 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
お布団 - 何回ワシをにやけさせんねん!! (2021年11月28日 10時) (レス) @page50 id: e77bb3532f (このIDを非表示/違反報告)
リンネ(プロフ) - 私、恋愛をした事なくて恋愛小説をどこか違う世界のものとして読んでました。でもこの小説は、感情移入してしまって雨宮の「自分が嫌い」という感情が私と重なって泣いてしまいました。あなたの言葉で救われた気がします。ありがとうございます。 (2021年7月5日 2時) (レス) id: 2b6f27f6e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お水。 | 作成日時:2019年8月16日 11時