ガラスの瓶につぶされて

恋の理由・2 ページ6

　太輔は、オレが配達に行く日は、何かしらデザートやご飯を用意してくれている。それも、有名な所のものばかり。
　それが分かってるから、今日もわざと少なめに食べてきたんだけど…今日もそうして正解だった。


「実はね、いただきものの羊羹もあるんだ。俺一人じゃ食べきれないから、持って帰って。ぜひお店の皆さんで食べてね」


　まるで恋人に話しかけるような声色で見つめられて、花を運ぶオレの指先はぷるぷると震えっぱなしだった。




　いつものように応接室に通されて、ケーキと紅茶を振る舞われる。太輔が言っていた通り、ケーキの生クリームはミルク感がたっぷりで、でもしつこくなくて、すごく上品な味がした。

「美味しい…」

「ふふっ、よかった。渉に喜んでもらえて嬉しいよ」

　太輔がさらりとそんなことを言って、それから、じっとオレを見つめてきた。

　優しさに満ちた…慈愛、のような、そんなまなざしだ。
　子どもを見るような、恋人を見るような、花や生き物を見るような…でも、そのどれもとは微妙に違う、でもやっぱり似ている、そんな不思議な色をしている。

　オレの目蓋が震えるのが分かって、それに少し動揺して、無意識に唇を噛んでしまう。そんなオレの動きに、太輔の口端が小さくあがった。

　胸のまん中が、ぞく、と痺れた。


「…なんで、オレ、なの？」

　太輔が、小さく目をみはる。微かに傾いた彼の首に、また胸がぞくりとした。


「いきなり、初めて会ったその日に、オレがす、好き…なんて。太輔は人気者で、才能にも溢れてて、かっこよくて…その…オレなんかを好きになる理由が、考えても考えても分からなくて…」

「理由？」

「だって、か、顔とかじゃ…ないんだろ…」

「うん。顔じゃないね」

「っ、そ…」

　そうだよな。の声は、最後まで出なかった。

　そりゃあそうだ。オレの顔なんてめちゃくちゃ普通だし。一目惚れだって言われたほうが逆に怪しい。

　でも、そう理解はしていても…断言されてしまうと少し微妙な気持ちだ。
　太輔が、体から力を抜くようにふふ、と息を吐く。


「たしかに、きっかけは顔じゃなかった。でも今は渉の顔が大好きだし愛おしいし、世界で一番綺麗だって本気で思ってるよ」

「…うそだ」

「ううん。嘘じゃない。渉は綺麗だよ」

　はっきりと、真面目な顔と声でそう言われて、息が止まりそうになった。固まるオレに、太輔はふわりと微笑みかけてくる。

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