ガラスの瓶につぶされて

夕立ち、薔薇、ヒカリ ページ24

　桃色の花の形をした、上品な和菓子を食べながら太輔とお茶をする。太輔は、口を動かすオレを満足そうに眺めながら、今日情報解禁になったドラマの事について語ってくれた。


　どうやら太輔は他のキャスト達が発表された後に追加で出演が決まったらしく、ドラマの放送直前まで情報を伏せられていたらしい。ドラマ自体は数話を残してすでに撮り終えてあるそうだ。


「じゃあ、さっそく次の月曜日から始まるのか…」

「うん。主役のカップルじゃないから、毎回数分くらいしか喋らないんだけどね。でも、メインカップルにも負けないくらい素敵な展開になってるんだよ。詳しくは言えないけどライバルも出てくるしね。是非、渉に見てほしいな」

「うん。ちょうど家でのんびりしてる時間だし、見る。…太輔の演技もその、気になるし…」

「ふふ、ありがとう。簡単な演技指導はつけてもらったんだけど、演技なんて本当に素人だからちょっと照れくさいな」

「えっ。演技指導…？」


　教室を開いて、毎日オレに薔薇を贈りにきて、その間にもバラエティとかの撮影もしてて…そんな合間を縫って、演技の勉強を？

「…知らなかった」

　ぽつりと溢れた自分の声に、胸の奥がもやもやっとする。

　また、太輔の秘密をひとつ知った。


「…すごいな。…ちゃんと、勉強したんだ…」

「さすがに演技ともなると、独学じゃ絶対無理だって思ってね。最初の一週間は週七でみっちり基礎を教えてもらったな」

「週、七…」

　それって…週七って事は…。

「っオレと、遊んだ日も…行ってたのか…？」

「うん。渉とバイバイした後にね。昼間は本業があるし、どうしても深夜のレッスンになっちゃうから大変だったけど、そのぶん集中して取り組めたから良かったと思ってるよ」


　なんでもない事のように笑って話す太輔に、オレは、かける言葉が見つからずに黙り込んでしまう。
　太輔が、人知れずそんな大変なスケジュールをこなしてたなんて。

　昼間は仕事をしたり教室を開いたり、オレと遊んだりしながら…深夜に演技のレッスン。
　たった一週間っていったって、かなりハードだったはずだ。レッスンだって数十分とかじゃ終わらないだろうし。

　それでも太輔は、そんな大変さをオレに気づかせる事なくこなしたんだ。

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