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「…あの！」
今日の講義は全て終わっているし、そろそろ帰ろうかと校舎を出て中庭に差し掛かった時。
初めて見る女子に声をかけられた。
「え、俺？」
「う、うん。えっと…ゾムくん、だよね？」
「そうやけど…」
ストレートの髪を揺らしながら俯く彼女に嫌な予感がして、こっそり眉を寄せた。彼女はそれに気付く様子もなく、赤い顔を上げて俺を見る。
「あのね、私、ゾムくんのこと前からいいなって思ってて…良かったら付き合ってほしくて…」
予感は見事的中した。
こうして告白されることも少なくはない。自分で言うのもなんだけど、結構モテる方なのかもしれない。
とは言っても当然付き合うはずもないので、いつも通りのセリフを吐く。
「ごめん、俺彼女おるから」
「え…」
「他当たって、そんじゃ」
少し冷たいぐらいに配う。
Aちゃんがいなくなってからというもの、感情の変化がめっきり薄くなってしまったように感じる。
友達と笑いあっても心から楽しかったことは無いし、合コンに行ってもAちゃんに適う人になんて出会うはずもない。
それに、未だに俺の耳に光るピアスも、ポケットに入れているプレゼントも、家に置いてくることができないのだ。
何をしていても、頭の中はAちゃんのことばかり。
Aちゃんがもし戻ってきたら、Aちゃんに会うことができたら。あの日渡せなかったこのピアスを、今度こそお揃いでつけることができるのだろうか。それともあの日、ピアスを渡してしまっていれば、Aちゃんがいなくなることはなかったのだろうか。
いくら考えても答えの出ないことを何度も何度も考えた。
でも俺には重すぎたようで、何もできず、何も考えずに明るく振る舞うようになった。
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