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大きな噴水がある家なんて、そんなにないからすぐに案内することが出来た。ホテルみたいだなー、と見上げていたそこは後々知るが全国規模の田村グループの別荘地だったそう。門の近くまで案内すると『ここで大丈夫』と小さな声で言った。
『そ!良かった!』
『本当にありがとうございます』
『ううん!じゃあねー!』
『あっ...待って』
友だちのところに戻ろうとした私を引き止める。どうしたのかと思ったら、彼はおずおずと指を指す。
『それ......なぁに?』
『......これ?カブトムシ!!私がとったの!』
そういえばずっと持ったまんまだった、とそれを彼の方に見せると、瞳をキラキラと輝かせる。そっと手を伸ばしてきて、指先でカブトムシに触れると『うわぁ』と嬉しそうに声を出す。
『僕、初めて触った...』
『ええ?!ここら辺、いっぱいいるよ?!』
『僕、ここにはたまにしか来ないから......すごいなぁ』
『......じゃあ、あげる!』
なんでか嬉しくって、私はカブトムシをあげた。それを大事そうに受け取って笑ったあの笑顔に、私の心は奪われた。
『......ありがとう、大切にするね』
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作者名:時雨 | 作成日時:2022年11月19日 10時