54話 ページ19
松陽に髪を乾かしてもらうこと、それは最近恒例になっていた。思わずうとうとしてしまうほど心地よくて好きな時間でもある。
「はい、終わりましたよ。今日も綺麗です」
「……うん…ありがと…う」
そのまま後ろに倒れて松陽にもたれかかればちゃんと受け止めてくれる。物理的に僕よりも頑丈な体は、身を預けるのに安心する。さらなる眠気が襲ってきた。
「眠たいですか?」
「松陽が上手でな…つい眠たくなる」
くわぁと欠伸をすれば、何故かひどく苦しそうに微笑った松陽はそのまま僕の目を塞ぐ。寝てもいいという合図だろうか。
「独り言ですから。聞いていて」
どっちだよと言いたくなったが、僕は温かい手を当てられたまま耳を傾けた。
「私の隣にいてくれて、永遠の苦しみから救ってくれて、生きる意味をくれてありがとうございます。好きですよ、愛してる。
空いた手で痛いくらい僕を抱きしめてそうこぼした。
「…心配事でもあるのか」
回っている手に触れて問えば耳元で小さく息を吐いた。
「不安なんです。君が私の元を去らないか、私以外を好きにならないか」
「僕は松陽のこと好きだぞ。ずっと隣にいたいと思うくらいには」
「でも!それは親愛なのでしょう…?私のは違う、愛情に独占欲と嫉妬が混じったものだ。純粋なものじゃなくて混濁したものなんです」
ひどく不安そうな声は今にも壊れてしまいそうだ。その不安の種は僕であるのだが。上手く伝わらないものである。僕は少し微笑って僕の首に顔を埋める松陽を撫でながら言った。
「この前子供達に付きっきりのことがあっただろ?僕に『ちょっと待っててくださいね』とか言って。全然少しも僕のこと見ないで。子供達に構ってばかりで。その時さ、胸の辺りがもやっとして、一瞬少しだけ『僕のなのに』と思ってしまったんだ。気がついて切り替えたが、後で子供達に聞いたら嫉妬というやつらしくてな。新たな発見に喜んだが、これはお前の言う『混濁したもの』だろうか」
そう笑えば視界を塞いでいた手は退かされ驚いた表情の松陽と目が合う。
「こんな感情知らなかったんだ。好きだから『僕の』と思ってしまう。違うのに。『好き』が引き金なら子供達の時にも感じるはずだ。なのに感じなかった。なぁ教えてくれ、これは恋慕だろうか。苦しいのは恋煩いだからだろうか。この好きは松陽と同じなのだろうか」
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作者名:月光 | 作成日時:2018年8月4日 0時