『彼は見る』 ページ16
少女は彼に綺麗に纏められた紙の束を渡した。
それは澪奈が死んでしまったから書けなくなってしまった、澪奈がモデルの話だった。
少女は彼に、何も言わず美術室を出ていった。
その際、少女が授業で使っていた机の上にノートを忘れたまま。
彼はそのノートを回収し、美術準備室へと入る。
紙束に綴られた文字を1つ1つ、目で追っていく。
嗚呼、生きている。
彼女は確かに、この物語の中で生きている。
薬も、環境も、何のしがらみもなく自由に泳ぎ、彼女は栄光を手にした。
人並みに恋をして、友達と手を繋ぎ、学校中を動き回る。
生きているのだ。
きっと、今も、この瞬間も。
彼女はこの物語の中で幸せを噛み締め、ゆっくりと大人になり、やがて家族が出来る。
その様子があまりにも美しく繊細に実話のように描かれていた。
彼は1粒涙を零した。
これが、少女の出した答えだったのだと。
そして彼は次に、1冊のノートを手にする。
1ページ目には数行の文が書いてあった。
これは、手記だ。
それでいて、懺悔の書だ。
これは私達人間が生きる世界で本当にあった事で、全くの作り話とは違う。
誰よりも、何よりも欲望深い私達が、同じように生きる誰かを、何かを、知らずのうちに追い込み、殺してしまった事を悔やむ書物だ。
神様なんていない。
──しかし、ヒーローは存在すると私は考える。
それは本当に少女の手記で、少女が高校に入ってから今までの事が綴られていた。
しかし彼は、とある1ページで手を止めた。
涙が溢れて仕方がなかった。
今まで淡々と、あった事や思った事をただ綴っていた彼女の手記。
丁寧で、文字も綺麗だったのに、たった1ページだけは、とても雑に書き殴られていたから。
これが少女の本心だったのだと彼は思い知った。
だからこそ、涙が止まらないのだ。
少女の心の声が、文字を通して聞こえたようだった。
「助けて」と少女が叫んでいるようだった。
だから彼は、少女の生徒のヒーローになろうと決めた。
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蒼炎 - こういうものは、初めて読みましたが、いつもと違う視点で見れて面白かったです！！ (2020年1月21日 10時) (
レス) id: 874e279780 (このIDを非表示/違反報告)
hoshina(プロフ) - もにゅ。さん» ありがとうございます！！そう言っていただけで本当に嬉しいです！！ (2019年5月27日 20時) (レス) id: 5593419b1c (このIDを非表示/違反報告)
もにゅ。(プロフ) - コメント失礼します。初見ながら、号泣しながら読ませていただきました。言葉遣いや主人公の感情が詰まった作品に感動しました。素敵な作品をありがとうございます (2019年5月27日 12時) (レス) id: 644239c1b9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：☆友梨ぃ☆
作成日時：2019年5月19日 18時
