拝啓、英雄の貴方へ。【3年A組】

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あの10日間の事件から1年後。

貴方は1年という長い闘病生活の末、息を引き取りました。

私はその日、仕事の都合で貴方が生きているうちに貴方の元に行く事が出来ず、貴方が亡くなったという報告を受けて走って、貴方の病室へと向かいました。

手には貴方が好きだと言ったツワブキの花の束を抱えて。

病室に入った時、まだ3月の初めで外は酷く寒かったというのに、妙に暖かく感じたのを覚えています。

走ってきたからでしょうか、それとも、もう目覚める事のない貴方の表情が酷く穏やかだったからでしょうか。

シクシクと泣く元クラスメイトを、その表情が優しく包み込んでいる気がしたのです。

私は、泣きませんでした。

実感が沸かなかったのだと思います。

また目覚める。

そのやせ細った手が動いて、また静かに私の頭を撫でてくれる。

そんな風に思っていたのです。

私はまだまだ子供でした。

貴方が霊安室に運ばれる際、私は花束を床に落とした事も気にせず、貴方の身体に縋り付きました。

「やめて、連れていかないで」

少しずつ体温を失っていく貴方の身体に、ようやく貴方の死を実感したのです。

ボロボロと泣きながら「連れていかないで」と訴える私を、甲斐君が貴方の身体から引き剥がしました。

あれはきっと、彼の気遣いでしょう。

子供のように泣きじゃくり、我儘を口にする私を見ていられなかったのかもしれません。

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