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「もしかしてだけどおれ以外の人とかにやったりするわけ? チョコレート」
「あれは、……失敗作だから」
「……は?」
「失敗作したって言ってんじゃん。だから変わりの。プロが作ったやつにしたの」


 作るつもりなんてなかった。けれど、その場に居たら何となく、作らなくちゃいけないような雰囲気と、好きな人のために一生懸命な彼女たちがすこし羨ましく映る。

 流されるように初めて作ったチョコレートは形が歪で、あとから処分しようと思っていたものだ。

 
「その方が、マチガイないじゃん」
「……」


 部屋の中にこぼれ落ちた彼女の自信の無い言葉にゆきむらさんは立ち上がる。
 まっすぐキッチンの方へと向かい、受け取っておけばよかったそれを持って彼女の元へと戻る。


 紫色のリボンを解いて箱を開けると九つに区切られた仕切りにひとつずつ違うチョコレートが入っていた。
 甘そうなハートの形のチョコレートをひとつ取って食べる。
 すぐに甘い味とカカオの香りが広がった。


「は? ゆきむ、話聞いてた?? それ、失敗さ、」
「不特定多数の客に作ったプロより、ゆきむらの為に作ったAのほうが良いに決まってんじゃん」
「っ」
「ふつうに美味いし」


 形が歪。彼女が言うのは本当にちょこっとだけ。食べる側からしたら気にもしない所。外観で判断しないゆきむらさんなら、尚更どうでもいい所だ。

 口に入れてわかる、甘くて優しい味。
 丁寧に丁寧に作ったから、尚更旨味が溢れるそれが失敗作だなんてこれっぽっちも思わない。


「舌、おかしいんじゃないの?」
「おれの舌にあってる」
「……バカ舌じゃん」


 一個、二個。
 次々にチョコレートを口に入れるゆきむらさんを見て涙が出そうだった。


「高い方が、……みんなが認めた方がオイシイにきまってんじゃん、」
「好みにもよるだろうがよ」
「変わってんね、ホント」
「好きになった?」
「スキじゃない」


 普段囁くことの無い愛言葉。
 今日くらいは、今だけは甘えたくなってしまったのかもしれない。



「スキじゃ、……足りなくなった」



 買ってきたチョコレートは乱雑に。
 作ったチョコレートを選んでくれたゆきむらさんの唇を奪う彼女。

 今日のキスはすごくあまい。

次回更新日 3月18日→←𓂃 𓈒𓏸



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作者名:Stellar | 作成日時:2022年12月4日 8時

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