■は■■まで。 / ゆきむら。 (ページ2)

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📕「大量出血」ページ2

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　……目覚めが悪いのはいつもの事。起きたら忘れる胸糞悪い夢も、昼過ぎまで眠ってしまったこの身体も、いつもの事だ。

「起きるのおせー」
「……今日、なんかあったっけ」
「別になんも無いけどさ」

　ちょっと前から飼い始めたヨダツという猫を抱きながら近くに寄ってくるゆきむ。おはようの合図なのかなんなのか。猫語は私には分からないからなんて言ってるかわかんねぇーけど、ペロッと手のひらを舐めてくる。

「おはようってヨダツちゃんが言ってるんだけど」
「あー……、はいはい、おはよ」

　生き物なんか飼ったら死ににくくなるじゃん。初めの頃なんかはそう思ってた。いや、今も思ってるけど。保健所から貰ってきたというその猫はちょっと目つきが悪いメス。以前なんかの放送で『ネコとかイヌとか動物系かわいいって思ったことない』なんて言ってたゆきむも今ではメロメロ。

　ちょっとムカつく猫。

　それでも何故か私の方に懐いてるヨダツはゆきむの胸からピョンと飛び降りてこっちに近づいてくる。

「……っ、なに。おはようって言ったじゃん」
「構って欲しいんじゃん？」
「はぁ？めんどくさ……、……ご飯なら向こうだろ」

　怖い。正直。未だに抱っこの仕方も撫で方も分からない私はヨダツにぴょこんと右手に触れられそうになって思わず後ろに引っ込める。

「あ、」
「Aは冷たいねぇ、ヨダツちゃん」
「…………、」

　私……、まだ、手庇って生活してるんだ。
　ははっ、……もう、意味なんてないのに。

✘

「全く一体何回言ったら分かるのかしら。お姉ちゃんと二歳下の妹だって少し教えたらできたって言うのに全然じゃない」
「……すみません」

　母からため息と共に出てきた文句は広い部屋に響く。音楽家の両親から産まれた三人の娘は当然のように幼い頃からヴァイオリンを教わっていた。五歳の誕生日の日、欲しくもないヴァイオリンをプレゼントされ始まった地獄は、成長する度に私を苦しめる。

　天才肌の姉と妹。一度教えたらなんでもすぐこなす二人に比べられるのが死ぬほど嫌だった。